日本での報告(その1)
ステロイド外用剤によるSteroid Withdrawal Syndrome 様症状について(Steroid Withdrawal Syndrome by Topical Corticosteroid) 榎本充邦、荒瀬誠治、重見文雄、武田克之 香粧会誌 Vol.15 No.1(1991)
これは、本邦ではじめて、リバウンド期の皮膚症状が記述された論文です。非常に含蓄の深いものなので、 Abstract(要約)部分を全文引用します(原文は英文です。邦訳は私によります)。
-----(ここから引用)-----
The corticosteroid withdrawal syndrome, the systemic side effect, occurred in 7 patients who had used potent topical corticosteroids for a long time on their skin lesions. In all cases, characteristic symptoms of the syndrome such as weakness, fatigue, low grade fever, oligouria, tachycardia, gastrointestinal and psychological symptoms were noted. In addition,diffuse edematous erythema appeared widely beyond the primary lesions about 5 days after cessation of the drugs. These symptoms, together with the facts that adreno-cortical insufficiency was found in 5 of 7 patients and either systemic corticosteroid or ACTH was requested for the treatment in all patients, lead us to consider that the erythema was not flare of the primary diseases but was a rebound skin manifestation in the corticosteroid withdrawal syndrome. Local withdrawal rebound eruption frequently occurs on the face which is now well known as rosacea-like dermatitis, but systemic one caused by topical corticosteroid as mentioned here has not been reported. It should be noted that topical corticosuteroids can induce the withdrawal syndrome, and diffuse rebound erythema is a characteristic skin manifestation of the conditions as mentioned here which are caused by topical corticosteroids.
(強力なステロイド外用剤を長期間皮疹部に外用した7人の患者において、全身性の副作用である「副腎皮質ステロイド離脱症候群」が生じた。全例で、この症候群の特徴である脱力・疲労感・軽度の発熱・乏尿・頻脈・胃腸および精神症状がみられた。それに加えて、浮腫性紅斑が、薬を中止した約5日後から、もともとの皮疹の範囲を超えて広範に出現した。 これらの症状と、下垂体・副腎不全が7患者中5患者にみられたこと、全身性ステロイド投与またはACTH投与が全例に必要であったことから、われわれは、この紅斑は原疾患の悪化ではなくて、ステロイド離脱症候群にみられるリバウンドの皮膚症状であると考えた。 離脱にともなう局所的なリバウンドの発疹は、顔面でしばしばみられ、酒さ様皮膚炎としてよく知られている。しかし、本稿で記したような、ステロイド外用剤による全身性の皮疹の報告は、これまでに無かった。 ステロイド外用剤は離脱症候群を引き起こしうること、そして、リバウンド期の全身性の紅斑は、ステロイド外用剤によって引き起こされるこの症候群の皮膚症状として特徴的であること、は、記憶しておかなければならない。)
-----(ここまで引用)-----
この論文が「日本香粧品学会誌」という、聞きなれない雑誌に掲載されている理由ですが、目次を見ますと、
15巻 1号目次原著:
1.DS-2630軟膏の血清コルチゾール値ならびに一般臨床検査値に及ぼす影響の検討—健常人を対象として0.064%ジプロピオン酸ベタメタゾン軟膏との比較— … 榎本充邦,荒瀬誠治,武田克之 … 6
2.ステロイド外用剤によるSteroid Withdrawal Syndrome様症状について … 榎本充邦,荒瀬誠治,重見文雄,武田克之 … 17
(中略)
学会報告:第15回日本接触皮膚炎学会報告・第40回日本アレルギー学会報告 … 早川律子 … 45
となっていて、当時開発中の新しいステロイド外用剤についての、いわゆる「治験論文」とセットでの掲載だったことがわかります。共同執筆の武田克之教授は、このころのステロイド外用剤の治験を数多く手がけていた先生です。また、「日本接触皮膚炎学会報告・日本アレルギー学会報告」が掲載されておりますように、このころは独自の学会誌をもつ学会は少なく、学会報告や治験論文が、こういった一見場違いな雑誌を利用して掲載されるということはよくありました。 雑誌自体は、皮膚科とやや離れていますが、ステロイド外用剤の治験で広く活躍された武田先生の教室からの、正規の(武田教授の認証を得た)論文であり、そう考えると権威がありますし、ステロイド外用剤の治験論文とセットというところが、なんとも味わいがあります。
補足:ステロイド外用剤の治験論文から読み取れること
ところで、治験論文とは何かというと、ある薬が、疾患や病態に有効である、という証明のようなものです。あらゆる薬は、発売前、あるいは発売後も使用調査という形で、有効性の評価、再評価がなされます。その結果は、医学雑誌などに論文と言う形で報告されます。それが「治験論文」です。この治験論文によって、ステロイド外用剤の長期連用の安全性が、どの程度確認されているのか?と疑問を抱いて、以前に調べてみたことがあります。その結果をまとめると、以下のようになります。
「長期」とは一般に百数十日までを想定している。
例えば「Diflorasone Diacetate外用剤長期投与による局所および全身的影響」という論文[1]においては、最長観察期間は16週でした。また「ハルシノニド外用剤長期投与時の臨床的有用性(臨床効果と全身影響)の検討」[2]という治験論文では14から112日(平均59日)でした。「ハルシノニド軟膏の長期投与による有用性の検討」[3]という論文では、3例のアトピー性皮膚炎について35から127日の観察がなされていました。100日を越えていたのはこのくらいで、その他の多くの治験論文は数日から数十日の外用期間で有効性の判定を行っていました。「ステロイド外用剤開発に関するガイドライン」(石原私案)[4]を見ても、第三相試験での期間は1ないし3週間、長期投与試験の期間は1ヶ月以上3ヶ月以内とされていました。
アトピー性皮膚炎において、ステロイド外用期間が数年から数十年に及ぶことは珍しくありませんが、このような長期使用の安全性を、治験や使用後調査は担保していないということです。また長期投与を表題に掲げた論文においては、下垂体副腎機能の低下の有無のみに関心が払われており、Steroid addictionすなわち、中止減量後の強い再燃(リバウンド現象)については、チェックされていませんでした。
中止減量後の強い再燃(リバウンド現象)すなわち依存(Steroid addiction)についての検討がされた治験論文はない。
薬物には、依存を生じるものとそうでないものとがあります。たとえば、高血圧の薬は、長期連用したとしても、だんだん薬の効きが悪くなって増量が必要になったり、中止減量とともに強いリバウンドが生じるということはありません。 ステロイド外用剤の皮膚への使用は、依存を生じます。これが、わたしが繰り返し警告していることです。依存を生じるタイプの薬であるならば、連用ではなく、一定期間ごとに休薬期間をおくとか、依存を引き起こさないように使う配慮が医師側に必要であり、どのような投与方法だと依存にならないのかを検討すればよいのです。わたしは、ステロイド外用剤の使用を全否定しているのではありません。
治験論文を検証している過程で、リバウンドを示唆する記述が見つかりました。原田ら[5]はclobetasol propionate(デルモベート)を1ないし4週間外用させて寛解に導いた21名のアトピー性皮膚炎患者を、次に betamethasone valerate(リンデロンV)に落としてみたところ、13名では引き続き寛解が保たれたが、8名(約38%)は再燃したと報告しています。そして丘疹(痒疹様結節を含む)が残存していた症例では再燃をみやすく、そのことは統計上も有意であったと記しています。 痒疹様結節のみられるステロイド連用中のアトピー性皮膚炎患者の多くが、中止とともにリバウンドを生じ、紅皮症化した後に自然消退することは、しばしば脱ステロイドの臨床現場で経験します。従って原田らの再燃例は、まさにリバウンドを観察していた可能性が高いと思います(この論文は1989年のもので、香粧会誌の論文が出る2年前です)
彼は「 strongestの外用剤からただちにstrongの外用剤にtaper し、コントロール良好群が62%という成績が得られたが、strongest→ very strong→ strong→ mild→ weakとさらに細かく段階的にランクを下げていくことにより、より高い成績が期待できるのではないかと思われる」と考察しています。 strongest→very strongに落とすときには、strongest→strongに落とすときよりも寛解率が高いと考えられます。どのくらい高いのでしょうか?仮に strongestからvery strongに落とすことによって得られる寛解率を、100と62の中間の81%と仮定して、very strong→ strongに落とす際の寛解率をやはり81%としましょう。すると、strongest→strongは、0.81×0.81=0.66となり、一度に落とすのと大差は無いことになります。 また、strong からweakに落とす際およびweak からsteroid offにする際の寛解率をやはり62%程度と見込めば、0.62×0.62=0.38、0.38×0.62=0.24となり最終的に4人に3人はどこかで再燃するため、リバウンドを避けては離脱できないということになると思います。 漸減して離脱する方法で、リバウンドを小出しにすることは出来るかもしれませんが、漸減することによってリバウンドを全く回避するということは理論上出来ない、ということです。漸減法を用いればまったく皮膚を綺麗に保ったまま離脱まで持ち込めるというのは幻想である、と言い換えてもいいです。現在の日皮会ガイドラインは、皮疹悪化時にはランクの強いステロイドを、軽快時には弱いステロイドを、ということになっているので、現行のガイドラインに従う限り、依存患者は永遠に離脱できません。「依存(steroid addiction)が疑われる皮疹であると考えられた場合には、一時的な皮疹の悪化があってもステロイドの増強・増量は避けて経過観察する」と書き加えられる必要があります。 また、この計算は、24%(4人に1人)くらいは、どのような方法を採ろうとも、リバウンド無しに離脱できる、とも言えます。そのような患者はステロイドを外用してはいても依存には陥っていなかった、ということでしょう。わたしの脱ステロイドの臨床経験からも、リバウンドを殆ど起こさずすんなりと離脱してしまう例はありました。
[1]Diflorasone Diacetate研究班、西日皮膚47:530、1985
[2]ハルシノニド長期臨床研究班、薬理と治療12:1815、1984
[3]原紀正他、薬理と治療12:4871、1984
[4]原田昭太郎、日獨医報38:33、1993
[5]原田昭太郎他、日小皮会誌8(sup)137、1989
表題の榎本先生の論文ですが、皮疹の記述としては、ステロイド外用剤による全身性のリバウンドをはじめて報告した貴重なものですが、治療としては全身性のステロイド投与を行っており、その後、最終的に離脱にまでもっていけたのかは、記されていません。1991年の時点では、あくまで、Steroid addictionに特徴的な皮疹経過が存在することに気が付かれはじめた、ということだと考えられます。 ステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎の皮疹を抑えることがSulzburgerによってはじめて報告されたのが 1952年でした。このとき用いられたのは、酢酸ヒドロコルチゾンで、本邦では1953年に承認されました。 Strongestクラスのデルモベートの日本での承認は1978年でした。香粧会誌の論文は1991年のものですから、酢酸コルチゾンから37年、デルモベートから13年かかって、リバウンドの皮疹が、原疾患の皮疹とは異なるものとして、日本で、正式に報告されたことになります。
2009.10.21
これは、本邦ではじめて、リバウンド期の皮膚症状が記述された論文です。非常に含蓄の深いものなので、 Abstract(要約)部分を全文引用します(原文は英文です。邦訳は私によります)。
-----(ここから引用)-----
The corticosteroid withdrawal syndrome, the systemic side effect, occurred in 7 patients who had used potent topical corticosteroids for a long time on their skin lesions. In all cases, characteristic symptoms of the syndrome such as weakness, fatigue, low grade fever, oligouria, tachycardia, gastrointestinal and psychological symptoms were noted. In addition,diffuse edematous erythema appeared widely beyond the primary lesions about 5 days after cessation of the drugs. These symptoms, together with the facts that adreno-cortical insufficiency was found in 5 of 7 patients and either systemic corticosteroid or ACTH was requested for the treatment in all patients, lead us to consider that the erythema was not flare of the primary diseases but was a rebound skin manifestation in the corticosteroid withdrawal syndrome. Local withdrawal rebound eruption frequently occurs on the face which is now well known as rosacea-like dermatitis, but systemic one caused by topical corticosteroid as mentioned here has not been reported. It should be noted that topical corticosuteroids can induce the withdrawal syndrome, and diffuse rebound erythema is a characteristic skin manifestation of the conditions as mentioned here which are caused by topical corticosteroids.
(強力なステロイド外用剤を長期間皮疹部に外用した7人の患者において、全身性の副作用である「副腎皮質ステロイド離脱症候群」が生じた。全例で、この症候群の特徴である脱力・疲労感・軽度の発熱・乏尿・頻脈・胃腸および精神症状がみられた。それに加えて、浮腫性紅斑が、薬を中止した約5日後から、もともとの皮疹の範囲を超えて広範に出現した。 これらの症状と、下垂体・副腎不全が7患者中5患者にみられたこと、全身性ステロイド投与またはACTH投与が全例に必要であったことから、われわれは、この紅斑は原疾患の悪化ではなくて、ステロイド離脱症候群にみられるリバウンドの皮膚症状であると考えた。 離脱にともなう局所的なリバウンドの発疹は、顔面でしばしばみられ、酒さ様皮膚炎としてよく知られている。しかし、本稿で記したような、ステロイド外用剤による全身性の皮疹の報告は、これまでに無かった。 ステロイド外用剤は離脱症候群を引き起こしうること、そして、リバウンド期の全身性の紅斑は、ステロイド外用剤によって引き起こされるこの症候群の皮膚症状として特徴的であること、は、記憶しておかなければならない。)
-----(ここまで引用)-----
この論文が「日本香粧品学会誌」という、聞きなれない雑誌に掲載されている理由ですが、目次を見ますと、
15巻 1号目次原著:
1.DS-2630軟膏の血清コルチゾール値ならびに一般臨床検査値に及ぼす影響の検討—健常人を対象として0.064%ジプロピオン酸ベタメタゾン軟膏との比較— … 榎本充邦,荒瀬誠治,武田克之 … 6
2.ステロイド外用剤によるSteroid Withdrawal Syndrome様症状について … 榎本充邦,荒瀬誠治,重見文雄,武田克之 … 17
(中略)
学会報告:第15回日本接触皮膚炎学会報告・第40回日本アレルギー学会報告 … 早川律子 … 45
となっていて、当時開発中の新しいステロイド外用剤についての、いわゆる「治験論文」とセットでの掲載だったことがわかります。共同執筆の武田克之教授は、このころのステロイド外用剤の治験を数多く手がけていた先生です。また、「日本接触皮膚炎学会報告・日本アレルギー学会報告」が掲載されておりますように、このころは独自の学会誌をもつ学会は少なく、学会報告や治験論文が、こういった一見場違いな雑誌を利用して掲載されるということはよくありました。 雑誌自体は、皮膚科とやや離れていますが、ステロイド外用剤の治験で広く活躍された武田先生の教室からの、正規の(武田教授の認証を得た)論文であり、そう考えると権威がありますし、ステロイド外用剤の治験論文とセットというところが、なんとも味わいがあります。
補足:ステロイド外用剤の治験論文から読み取れること
ところで、治験論文とは何かというと、ある薬が、疾患や病態に有効である、という証明のようなものです。あらゆる薬は、発売前、あるいは発売後も使用調査という形で、有効性の評価、再評価がなされます。その結果は、医学雑誌などに論文と言う形で報告されます。それが「治験論文」です。この治験論文によって、ステロイド外用剤の長期連用の安全性が、どの程度確認されているのか?と疑問を抱いて、以前に調べてみたことがあります。その結果をまとめると、以下のようになります。
「長期」とは一般に百数十日までを想定している。
例えば「Diflorasone Diacetate外用剤長期投与による局所および全身的影響」という論文[1]においては、最長観察期間は16週でした。また「ハルシノニド外用剤長期投与時の臨床的有用性(臨床効果と全身影響)の検討」[2]という治験論文では14から112日(平均59日)でした。「ハルシノニド軟膏の長期投与による有用性の検討」[3]という論文では、3例のアトピー性皮膚炎について35から127日の観察がなされていました。100日を越えていたのはこのくらいで、その他の多くの治験論文は数日から数十日の外用期間で有効性の判定を行っていました。「ステロイド外用剤開発に関するガイドライン」(石原私案)[4]を見ても、第三相試験での期間は1ないし3週間、長期投与試験の期間は1ヶ月以上3ヶ月以内とされていました。
アトピー性皮膚炎において、ステロイド外用期間が数年から数十年に及ぶことは珍しくありませんが、このような長期使用の安全性を、治験や使用後調査は担保していないということです。また長期投与を表題に掲げた論文においては、下垂体副腎機能の低下の有無のみに関心が払われており、Steroid addictionすなわち、中止減量後の強い再燃(リバウンド現象)については、チェックされていませんでした。
中止減量後の強い再燃(リバウンド現象)すなわち依存(Steroid addiction)についての検討がされた治験論文はない。
薬物には、依存を生じるものとそうでないものとがあります。たとえば、高血圧の薬は、長期連用したとしても、だんだん薬の効きが悪くなって増量が必要になったり、中止減量とともに強いリバウンドが生じるということはありません。 ステロイド外用剤の皮膚への使用は、依存を生じます。これが、わたしが繰り返し警告していることです。依存を生じるタイプの薬であるならば、連用ではなく、一定期間ごとに休薬期間をおくとか、依存を引き起こさないように使う配慮が医師側に必要であり、どのような投与方法だと依存にならないのかを検討すればよいのです。わたしは、ステロイド外用剤の使用を全否定しているのではありません。
治験論文を検証している過程で、リバウンドを示唆する記述が見つかりました。原田ら[5]はclobetasol propionate(デルモベート)を1ないし4週間外用させて寛解に導いた21名のアトピー性皮膚炎患者を、次に betamethasone valerate(リンデロンV)に落としてみたところ、13名では引き続き寛解が保たれたが、8名(約38%)は再燃したと報告しています。そして丘疹(痒疹様結節を含む)が残存していた症例では再燃をみやすく、そのことは統計上も有意であったと記しています。 痒疹様結節のみられるステロイド連用中のアトピー性皮膚炎患者の多くが、中止とともにリバウンドを生じ、紅皮症化した後に自然消退することは、しばしば脱ステロイドの臨床現場で経験します。従って原田らの再燃例は、まさにリバウンドを観察していた可能性が高いと思います(この論文は1989年のもので、香粧会誌の論文が出る2年前です)
彼は「 strongestの外用剤からただちにstrongの外用剤にtaper し、コントロール良好群が62%という成績が得られたが、strongest→ very strong→ strong→ mild→ weakとさらに細かく段階的にランクを下げていくことにより、より高い成績が期待できるのではないかと思われる」と考察しています。 strongest→very strongに落とすときには、strongest→strongに落とすときよりも寛解率が高いと考えられます。どのくらい高いのでしょうか?仮に strongestからvery strongに落とすことによって得られる寛解率を、100と62の中間の81%と仮定して、very strong→ strongに落とす際の寛解率をやはり81%としましょう。すると、strongest→strongは、0.81×0.81=0.66となり、一度に落とすのと大差は無いことになります。 また、strong からweakに落とす際およびweak からsteroid offにする際の寛解率をやはり62%程度と見込めば、0.62×0.62=0.38、0.38×0.62=0.24となり最終的に4人に3人はどこかで再燃するため、リバウンドを避けては離脱できないということになると思います。 漸減して離脱する方法で、リバウンドを小出しにすることは出来るかもしれませんが、漸減することによってリバウンドを全く回避するということは理論上出来ない、ということです。漸減法を用いればまったく皮膚を綺麗に保ったまま離脱まで持ち込めるというのは幻想である、と言い換えてもいいです。現在の日皮会ガイドラインは、皮疹悪化時にはランクの強いステロイドを、軽快時には弱いステロイドを、ということになっているので、現行のガイドラインに従う限り、依存患者は永遠に離脱できません。「依存(steroid addiction)が疑われる皮疹であると考えられた場合には、一時的な皮疹の悪化があってもステロイドの増強・増量は避けて経過観察する」と書き加えられる必要があります。 また、この計算は、24%(4人に1人)くらいは、どのような方法を採ろうとも、リバウンド無しに離脱できる、とも言えます。そのような患者はステロイドを外用してはいても依存には陥っていなかった、ということでしょう。わたしの脱ステロイドの臨床経験からも、リバウンドを殆ど起こさずすんなりと離脱してしまう例はありました。
[1]Diflorasone Diacetate研究班、西日皮膚47:530、1985
[2]ハルシノニド長期臨床研究班、薬理と治療12:1815、1984
[3]原紀正他、薬理と治療12:4871、1984
[4]原田昭太郎、日獨医報38:33、1993
[5]原田昭太郎他、日小皮会誌8(sup)137、1989
表題の榎本先生の論文ですが、皮疹の記述としては、ステロイド外用剤による全身性のリバウンドをはじめて報告した貴重なものですが、治療としては全身性のステロイド投与を行っており、その後、最終的に離脱にまでもっていけたのかは、記されていません。1991年の時点では、あくまで、Steroid addictionに特徴的な皮疹経過が存在することに気が付かれはじめた、ということだと考えられます。 ステロイド外用剤がアトピー性皮膚炎の皮疹を抑えることがSulzburgerによってはじめて報告されたのが 1952年でした。このとき用いられたのは、酢酸ヒドロコルチゾンで、本邦では1953年に承認されました。 Strongestクラスのデルモベートの日本での承認は1978年でした。香粧会誌の論文は1991年のものですから、酢酸コルチゾンから37年、デルモベートから13年かかって、リバウンドの皮疹が、原疾患の皮疹とは異なるものとして、日本で、正式に報告されたことになります。
2009.10.21