書籍の刊行と要望書の提出
半年ほど前から書きためた本ブログですが、このたび紙で印刷した書籍として刊行されることになりました。
表題:ステロイド依存(Steroid addiction)2010 – 日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎診療ガイドラインを修正せよ
著者:深谷元継
発行者:浜六郎
発行所:特定非営利活動法人 医薬ビジランスセンター
543-0002 大阪市天王寺区上汐3-2-17コモド上汐902号
(TEL 06-6771-6345 FAX 06-6771-6347)
発行日:2010年3月1日
です。
amazonはこちら
表題:ステロイド依存(Steroid addiction)2010 – 日本皮膚科学会はアトピー性皮膚炎診療ガイドラインを修正せよ
著者:深谷元継
発行者:浜六郎
発行所:特定非営利活動法人 医薬ビジランスセンター
543-0002 大阪市天王寺区上汐3-2-17コモド上汐902号
(TEL 06-6771-6345 FAX 06-6771-6347)
発行日:2010年3月1日
です。
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せっかくなので、全文を英訳して別サイトにUPしました。英語表題は"Atopy Steroid Addiction in Japan"です。アメリカでSteroid Addictionというと、普通はスポーツ選手の筋肉増強剤のことですし、どう表現したものだろうかと、nativeのかたに相談したところ、Atopy Steroid Addictionがインパクトがあっていい、とのことでした。また、atopyのほうがatopicより直截的でいいみたいです。
日本のこの問題を、海外のお知り合いに説明する際に、ご活用ください。
ただ「修正せよ」と、本の表題に記すだけで、具体的に何も行動しないというのも、おかしな話です。それで、この機会に、日本皮膚科学会にあてて、要望書を提出することにしました。
要望書
日本皮膚科学会 御中
謹啓、日頃各種学会活動ではお世話になっております。厚く御礼申し上げます。
さて、日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎治療・診療ガイドラインには、ステロイド外用剤の副作用である、依存(Steroid addiction)やリバウンドについての記載がありません。
古くはDr. Kligmanの臨床観察によって、アトピー性皮膚炎患者では、ステロイド外用剤による依存が生じやすいことが警告され1)、日本でも1991年に榎本充邦医師によって離脱時のリバウンド現象が「Steroid withdrawal syndrome様症候群」として報告されています2)。
2006年、イギリスの小児科医Dr.Corkによって、ステロイド外用剤が、一方では強い抗炎症作用を発揮するものの、その一方では、表皮バリア機能を破壊するというメカニズムが解明され、依存・リバウンドは、ステロイドの長期連用に伴う、皮膚という臓器特有の有害事象と考えられると報告されています3)。
これに伴い、非ステロイドのアトピー性皮膚炎治療新薬や、旧来の抗ヒスタミン剤、古典的なタール系外用剤の研究においても、ステロイド外用剤の長期連用にともなう依存・リバウンドという副作用の存在は、既に前提とされており、これらの薬剤がステロイド外用剤のような依存・リバウンドを起こさないことの確認や、ステロイド外用剤によるリバウンドを軽減するという薬理効果の発見に力が注がれるようになりました4)5)。
しかしながら、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎治療・診療ガイドラインには、今もって、ステロイド外用剤の長期連用による、依存・リバウンドについての記述がまったくありません。このままでは、日本皮膚科学会に所属する医師自身が、ステロイドによる依存・リバウンドへの配慮を欠くことで、患者を予期せぬ負担や苦痛へと追いやってしまう状況が続く恐れがあります。
わたしは、日本皮膚科学会に所属する医師の一人として、この状況を憂い、日本皮膚科学会の作成するアトピー性皮膚炎治療・診療ガイドラインに、ステロイド外用剤の副作用として、依存・リバウンドの記述を、早急に付け加えて頂くよう、ここに要望書を提出いたします。
謹白
平成 22年 3月 10日
References:
1) STEROID ADDICTION. AM. KLIGMAN, PJ. FROSCH, International Journal of Dermatology Volume 18(1974) Issue 1, Pages 23 – 31
2) ステロイド外用剤によるSteroid Withdrawal Syndrome 様症状について(Steroid Withdrawal Syndrome by Topical Corticosteroid)榎本充邦、荒瀬誠治、重見文雄、武田克之 香粧会誌 Vol.15 No.1(1991)
3) New perspectives on epidermal barrier dysfunction in atopic dermatitis: Gene–environment interactions. MJ Cork etc. J ALLERGY CLIN IMMUNOL Volume 118, Issue 1, Pages 3-21 (July 2006)
4) Blockade of Experimental Atopic Dermatitis via Topical NF-κB Decoy Oligonucleotide. Maya Dajee etc. Journal of Investigative Dermatology (2006), Volume 126
5) Olopatadine hydrochloride suppresses the rebound phenomenon after discontinuation of treatment with a topical steroid in mice with chronic contact hypersensitivity. T. Tamura etc. Clinical & Experimental Allergy, Volume 35, Number 1, January 2005 , pp. 97-103(7)
私個人だけではなく、意見を同じくする日本皮膚科学会正会員数名の連名で提出します。
わたしの知る限り、学会の策定したガイドラインに対し、このような形で、学会内部から、複数の学会員の連名で、修正の要望が出されるというのは、前例がないと思います。
ここをご覧になっている、日本皮膚科学会会員の先生がたにお願いです。
上記要望書をお読みになって、同意見のかたおられましたら、下記コメント欄に、その旨と御氏名・連絡先などお書きいただき、わたしにご連絡下さい(コメント欄は承認制となっておりますので、内容はわたしのところに伝わりますが、わたしが操作しない限り、コメント欄に表示されることはありません。ですので、わたしへの連絡用に使えます)。お名前を連名に追加して、わたしから日本皮膚科学会に提出いたします。
お名前は、要望書には記しますが、ほかのいかなる形においても、わたしが公表することはありません。
(平成22年3月10日 追記)
本日付けで、日本皮膚科学会宛に、上記要望書を内容証明郵便で送付しました。わたしを含めて7名の皮膚科学会正会員(皮膚科医)の連名です。
要望書のpdfは→こちら。
新聞報道記事は→こちら。
==========
以下は、雑感ですが、今回、このような本を刊行したり、要望書を企画したりする過程で、昔の仲間の先生から「脱ステ医がいなくて困っている。先生(わたしのこと)現場に復帰してくれ」と言われました。
わたしが、脱ステの正当性を唱えながら、現場に復帰しない理由は、これまでにもいろいろ書きましたが、ひとことで言うとリスクが大きすぎるからです。そのリスクとは、
1)社会的リスク(ガイドライン、訴訟など)
2)医療的リスク(悪化時に入院可能な紹介先が近くにない)
3)経済的リスク(採算性)
4)個人的リスク(わたしの場合は、鬱の再発)
にまとめられます。
4)は個人的なことであり、3)は例えば今やっている美容外科の仕事は採算性が高いので、それと並列でなら、診療可能かもしれません。しかし1)2)は現状が続くかぎり、お手上げです。わたしが、本を刊行したり、要望書を提出したりするのは、1)の社会的リスクの改善のためです。
(わたしは、リスクを非常に重視する人間(医者)です。個人で開業するにあたって、万が一、自院で急変があったときのために、JATEC(外傷救急)やACLS(心肺蘇生)のインストラクター資格まで取りました。そういう性格です。昔、わたしが、脱ステに取り組めたのは、当時の国立病院勤務医ということで、1)~3)のリスクが小さかったからだと思います)
わたしを含め、いわゆる脱ステ医の先生がたは、90年代くらいから、この道に入っています。しかし、その後、2000年以降になって、新しく脱ステ診療をしよう、と思い立って実践している若い先生を、わたしは知りません。1)2)のリスクが非常に悪化したからだと思います。
これらは情熱とかで解決できるものではありません。若い先生方のなかには、内々脱ステロイドの正当性に気が付いていても、現実にそれを行うことが出来ないジレンマに陥っているひともいると思うのです。
わたしが、現状で、個人クリニックの一医師として復帰したとして、いったいどれだけのアトピー脱ステ患者が救えるのでしょうか?わたしに「現場に復帰してくれ」と言った先生は、わたしの眼には、ちょうど疲れた救急医が現場から立ち去ったあとで、現場の労働条件をなんら改善することなく、ただ「現場が大変だから戻ってきてくれ」と言っている救急部の元上司のように映ります。
わたしは、この「ステロイド依存」問題に関わった一人の医療者として、いまの自分がなすべきことは、現場にもどることではなく、脱ステが皮膚科において当たり前の医療のひとつとなること、脱ステ医が特別な存在ではなくなるように、力を注ぐことだと考えました。
「一粒の麦もし死なずば」という言葉があります。感傷や自己陶酔ではなく、この「ステロイド依存」問題を解決するための、ひとつの戦略として、現場から離れざるを得ない状況に追い込まれた自分という存在を、アピールしていくことが自分が果たすべき役割だ、と思うのです。
いま、脱ステロイドに取り組んでいる患者の皆さん、この「脱ステ」というのは、おそらく、気が付いていらっしゃる方も多いと思うのですが、その先生でないと出来ない特別な治療法などありません。脱ステに名医などいません。医療者側の上記リスクが取り除かれれば、誰にでもできることです。言葉を変えれば、医者なら誰でも脱ステの名医になることが出来るのです。
わたしが、いま為すべきことは、現場に戻ることではないというのは、そういうことです。どうか、ご理解下さい。
2010.02.12
日本のこの問題を、海外のお知り合いに説明する際に、ご活用ください。
ただ「修正せよ」と、本の表題に記すだけで、具体的に何も行動しないというのも、おかしな話です。それで、この機会に、日本皮膚科学会にあてて、要望書を提出することにしました。
要望書
日本皮膚科学会 御中
謹啓、日頃各種学会活動ではお世話になっております。厚く御礼申し上げます。
さて、日本皮膚科学会が作成したアトピー性皮膚炎治療・診療ガイドラインには、ステロイド外用剤の副作用である、依存(Steroid addiction)やリバウンドについての記載がありません。
古くはDr. Kligmanの臨床観察によって、アトピー性皮膚炎患者では、ステロイド外用剤による依存が生じやすいことが警告され1)、日本でも1991年に榎本充邦医師によって離脱時のリバウンド現象が「Steroid withdrawal syndrome様症候群」として報告されています2)。
2006年、イギリスの小児科医Dr.Corkによって、ステロイド外用剤が、一方では強い抗炎症作用を発揮するものの、その一方では、表皮バリア機能を破壊するというメカニズムが解明され、依存・リバウンドは、ステロイドの長期連用に伴う、皮膚という臓器特有の有害事象と考えられると報告されています3)。
これに伴い、非ステロイドのアトピー性皮膚炎治療新薬や、旧来の抗ヒスタミン剤、古典的なタール系外用剤の研究においても、ステロイド外用剤の長期連用にともなう依存・リバウンドという副作用の存在は、既に前提とされており、これらの薬剤がステロイド外用剤のような依存・リバウンドを起こさないことの確認や、ステロイド外用剤によるリバウンドを軽減するという薬理効果の発見に力が注がれるようになりました4)5)。
しかしながら、日本皮膚科学会のアトピー性皮膚炎治療・診療ガイドラインには、今もって、ステロイド外用剤の長期連用による、依存・リバウンドについての記述がまったくありません。このままでは、日本皮膚科学会に所属する医師自身が、ステロイドによる依存・リバウンドへの配慮を欠くことで、患者を予期せぬ負担や苦痛へと追いやってしまう状況が続く恐れがあります。
わたしは、日本皮膚科学会に所属する医師の一人として、この状況を憂い、日本皮膚科学会の作成するアトピー性皮膚炎治療・診療ガイドラインに、ステロイド外用剤の副作用として、依存・リバウンドの記述を、早急に付け加えて頂くよう、ここに要望書を提出いたします。
謹白
平成 22年 3月 10日
References:
1) STEROID ADDICTION. AM. KLIGMAN, PJ. FROSCH, International Journal of Dermatology Volume 18(1974) Issue 1, Pages 23 – 31
2) ステロイド外用剤によるSteroid Withdrawal Syndrome 様症状について(Steroid Withdrawal Syndrome by Topical Corticosteroid)榎本充邦、荒瀬誠治、重見文雄、武田克之 香粧会誌 Vol.15 No.1(1991)
3) New perspectives on epidermal barrier dysfunction in atopic dermatitis: Gene–environment interactions. MJ Cork etc. J ALLERGY CLIN IMMUNOL Volume 118, Issue 1, Pages 3-21 (July 2006)
4) Blockade of Experimental Atopic Dermatitis via Topical NF-κB Decoy Oligonucleotide. Maya Dajee etc. Journal of Investigative Dermatology (2006), Volume 126
5) Olopatadine hydrochloride suppresses the rebound phenomenon after discontinuation of treatment with a topical steroid in mice with chronic contact hypersensitivity. T. Tamura etc. Clinical & Experimental Allergy, Volume 35, Number 1, January 2005 , pp. 97-103(7)
私個人だけではなく、意見を同じくする日本皮膚科学会正会員数名の連名で提出します。
わたしの知る限り、学会の策定したガイドラインに対し、このような形で、学会内部から、複数の学会員の連名で、修正の要望が出されるというのは、前例がないと思います。
ここをご覧になっている、日本皮膚科学会会員の先生がたにお願いです。
上記要望書をお読みになって、同意見のかたおられましたら、下記コメント欄に、その旨と御氏名・連絡先などお書きいただき、わたしにご連絡下さい(コメント欄は承認制となっておりますので、内容はわたしのところに伝わりますが、わたしが操作しない限り、コメント欄に表示されることはありません。ですので、わたしへの連絡用に使えます)。お名前を連名に追加して、わたしから日本皮膚科学会に提出いたします。
お名前は、要望書には記しますが、ほかのいかなる形においても、わたしが公表することはありません。
(平成22年3月10日 追記)
本日付けで、日本皮膚科学会宛に、上記要望書を内容証明郵便で送付しました。わたしを含めて7名の皮膚科学会正会員(皮膚科医)の連名です。
要望書のpdfは→こちら。
新聞報道記事は→こちら。
==========
以下は、雑感ですが、今回、このような本を刊行したり、要望書を企画したりする過程で、昔の仲間の先生から「脱ステ医がいなくて困っている。先生(わたしのこと)現場に復帰してくれ」と言われました。
わたしが、脱ステの正当性を唱えながら、現場に復帰しない理由は、これまでにもいろいろ書きましたが、ひとことで言うとリスクが大きすぎるからです。そのリスクとは、
1)社会的リスク(ガイドライン、訴訟など)
2)医療的リスク(悪化時に入院可能な紹介先が近くにない)
3)経済的リスク(採算性)
4)個人的リスク(わたしの場合は、鬱の再発)
にまとめられます。
4)は個人的なことであり、3)は例えば今やっている美容外科の仕事は採算性が高いので、それと並列でなら、診療可能かもしれません。しかし1)2)は現状が続くかぎり、お手上げです。わたしが、本を刊行したり、要望書を提出したりするのは、1)の社会的リスクの改善のためです。
(わたしは、リスクを非常に重視する人間(医者)です。個人で開業するにあたって、万が一、自院で急変があったときのために、JATEC(外傷救急)やACLS(心肺蘇生)のインストラクター資格まで取りました。そういう性格です。昔、わたしが、脱ステに取り組めたのは、当時の国立病院勤務医ということで、1)~3)のリスクが小さかったからだと思います)
わたしを含め、いわゆる脱ステ医の先生がたは、90年代くらいから、この道に入っています。しかし、その後、2000年以降になって、新しく脱ステ診療をしよう、と思い立って実践している若い先生を、わたしは知りません。1)2)のリスクが非常に悪化したからだと思います。
これらは情熱とかで解決できるものではありません。若い先生方のなかには、内々脱ステロイドの正当性に気が付いていても、現実にそれを行うことが出来ないジレンマに陥っているひともいると思うのです。
わたしが、現状で、個人クリニックの一医師として復帰したとして、いったいどれだけのアトピー脱ステ患者が救えるのでしょうか?わたしに「現場に復帰してくれ」と言った先生は、わたしの眼には、ちょうど疲れた救急医が現場から立ち去ったあとで、現場の労働条件をなんら改善することなく、ただ「現場が大変だから戻ってきてくれ」と言っている救急部の元上司のように映ります。
わたしは、この「ステロイド依存」問題に関わった一人の医療者として、いまの自分がなすべきことは、現場にもどることではなく、脱ステが皮膚科において当たり前の医療のひとつとなること、脱ステ医が特別な存在ではなくなるように、力を注ぐことだと考えました。
「一粒の麦もし死なずば」という言葉があります。感傷や自己陶酔ではなく、この「ステロイド依存」問題を解決するための、ひとつの戦略として、現場から離れざるを得ない状況に追い込まれた自分という存在を、アピールしていくことが自分が果たすべき役割だ、と思うのです。
いま、脱ステロイドに取り組んでいる患者の皆さん、この「脱ステ」というのは、おそらく、気が付いていらっしゃる方も多いと思うのですが、その先生でないと出来ない特別な治療法などありません。脱ステに名医などいません。医療者側の上記リスクが取り除かれれば、誰にでもできることです。言葉を変えれば、医者なら誰でも脱ステの名医になることが出来るのです。
わたしが、いま為すべきことは、現場に戻ることではないというのは、そういうことです。どうか、ご理解下さい。
2010.02.12