生活環境の中の何かに反応していると考えられる症例
この方は、二重盲験の20番目のエントリーですが、理由があって、休止して経過をみています。
来院時の皮疹です。服を脱いで頂いて全身を診て、「これはアトピー性皮膚炎ではない。ステロイドのリバウンドの可能性はあるが典型的ではない。」と、感じました。
皮疹は比較的治まった状態にあるとのこと。下腿から足の甲のあたりの一部境界の鮮明な多角形の皮疹が一番強いものです。
来院時の皮疹です。服を脱いで頂いて全身を診て、「これはアトピー性皮膚炎ではない。ステロイドのリバウンドの可能性はあるが典型的ではない。」と、感じました。
皮疹は比較的治まった状態にあるとのこと。下腿から足の甲のあたりの一部境界の鮮明な多角形の皮疹が一番強いものです。
この多角形は、前に紹介した「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方の、ステロイド離脱直後の前腕の皮疹に似ています(→こちら)。
この方の場合、肘や膝など、古典的なアトピー性皮膚炎の好発部位にはあまり湿疹はありません。
この方の場合、肘や膝など、古典的なアトピー性皮膚炎の好発部位にはあまり湿疹はありません。
両肩のあたりにも、淡い紅斑が左右対称にあります。全体的に乾燥傾向で、細かく毛羽立ったような粃糠疹を伴っています。
湿疹・皮膚炎には属しますが、アトピーともリバウンドとも言い難い奇妙な印象です。この時点で診断するとすれば、「皮膚炎」、もし半年以上の長期経過であれば「慢性湿疹」、それ以上は言いようがありません。
何とも診断しようのない奇妙な皮膚炎を見たら、とりあえず念のため、万が一のために、血液検査と皮膚生検というのが、昔皮膚科医であったころの、私の定石でした。万が一、というのは、成人性T細胞白血病や菌状息肉症といった白血病やリンフォーマです。非特異疹といって、奇妙な湿疹が発症に先行することがあるからです(以前、プロトピックの記事のところで記しました→こちら)。T細胞には、表皮向性といって、表皮親和性があるので、腫瘍化すると、無意味に表皮内に遊走し、そこで炎症を起こす結果、皮膚炎様となります。
一応、関連する血液検査と皮膚生検を行ってみましたが、今のところ、そういった所見はありませんでした。
あと、見落としがちな地雷的疾患としては、「筋炎症状のない皮膚筋炎(dermatomyositis without muscle involvement)」というのも、こんな感じです。しかし、その場合は、多少なりとも微小血管炎を示唆する皮疹になるし、もっと全身症状に重篤感があります。そのくらいかなあ。皮膚科医の方で、ほかに鑑別疾患思いつかれたかたは、是非コメント欄通じて教えてください。よろしくお願いいたします。
で、押さえるところ押さえておいた上で、病歴を聞きます。
元々、杉花粉の鼻炎はあるが、アトピー性皮膚炎は無かったそうです。28才で結婚してから、なぜか手に湿疹が出来て、話はそこから始まります。
何とも診断しようのない奇妙な皮膚炎を見たら、とりあえず念のため、万が一のために、血液検査と皮膚生検というのが、昔皮膚科医であったころの、私の定石でした。万が一、というのは、成人性T細胞白血病や菌状息肉症といった白血病やリンフォーマです。非特異疹といって、奇妙な湿疹が発症に先行することがあるからです(以前、プロトピックの記事のところで記しました→こちら)。T細胞には、表皮向性といって、表皮親和性があるので、腫瘍化すると、無意味に表皮内に遊走し、そこで炎症を起こす結果、皮膚炎様となります。
一応、関連する血液検査と皮膚生検を行ってみましたが、今のところ、そういった所見はありませんでした。
あと、見落としがちな地雷的疾患としては、「筋炎症状のない皮膚筋炎(dermatomyositis without muscle involvement)」というのも、こんな感じです。しかし、その場合は、多少なりとも微小血管炎を示唆する皮疹になるし、もっと全身症状に重篤感があります。そのくらいかなあ。皮膚科医の方で、ほかに鑑別疾患思いつかれたかたは、是非コメント欄通じて教えてください。よろしくお願いいたします。
で、押さえるところ押さえておいた上で、病歴を聞きます。
元々、杉花粉の鼻炎はあるが、アトピー性皮膚炎は無かったそうです。28才で結婚してから、なぜか手に湿疹が出来て、話はそこから始まります。
特記事項として、この方は、痒みのみならず、痛みも訴えます。それも「雑巾絞りをされるような痛み、チクチクと針に刺されるような痛み」です。
これも、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方に似ています。彼女の訴えも、痒みとともに「痛み」でした。
アトピー性皮膚炎と言えるのか、あるいは、ステロイドのリバウンドなのか、患者としては見当がつかず、このクロフィブラートの二重盲験試験に応募してよいものかどうか、悩まれたようですが、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の記事を読んで、応募を決意されたようです。
被験薬をお渡しして2日後、彼から電話がありました。「軟膏を外用したところ、湿疹が悪くなったような気がする」とのこと。
接触皮膚炎の可能性があります。来院して頂くと、耳の後ろなど、あちこちに急性期の湿疹が生じていました。
それで、白色ワセリンとクロフィブラート軟膏とで、パッチテストしました。
これも、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方に似ています。彼女の訴えも、痒みとともに「痛み」でした。
アトピー性皮膚炎と言えるのか、あるいは、ステロイドのリバウンドなのか、患者としては見当がつかず、このクロフィブラートの二重盲験試験に応募してよいものかどうか、悩まれたようですが、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の記事を読んで、応募を決意されたようです。
被験薬をお渡しして2日後、彼から電話がありました。「軟膏を外用したところ、湿疹が悪くなったような気がする」とのこと。
接触皮膚炎の可能性があります。来院して頂くと、耳の後ろなど、あちこちに急性期の湿疹が生じていました。
それで、白色ワセリンとクロフィブラート軟膏とで、パッチテストしました。
結果は陰性です。パッチテストで陰性ですから、被験薬の影響ではありません。また、被験薬は、この方の場合、白色ワセリンでした。この方はクロフィブラート軟膏はまだ使っていません。
パッチテストの判定にいらっしゃった日(二日後)には、湿疹は少し治まっていました。
以上の経過から、私が考えたことを記します。まず、もともとアトピー性皮膚炎は無いです。「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方と同じです。
この方と、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方との一番の違いは、H18頃、およびH20~22の頃は、まったく皮膚炎は治まっていた点です。アトピーやリバウンドの経過というのは、一連の「物語」となっていることが多いのですが、この方の経過は連続していません。断続的で、その一つ一つが小さな物語として完結している感じです。
こういうケースの場合、一番考えやすいのは、生活環境中の何かに対する、アレルギー性接触皮膚炎です。何か原因物質が生活環境中にONになると湿疹が出て、OFFになると消えます。その「何か」が解らないのですが・・。
アレルギー性接触皮膚炎というのは、思いもかけない原因で起こります。たとえば、おばあちゃんの慢性の顔面の湿疹の原因が、毎日仏壇にあげていたお線香に含まれる香料であった、といった例もあります。
解決法は、まず患者自身が「これではないか?」と疑うことです。疑わしいものがあれば、その生活用品の成分を確認して、パッチテストを行うことで、原因確定に至ります。
しかし、患者自身が、何も心当たりがない、気が付かない、となると、医者もお手上げです。パッチテストしようにも手がかりが無いからです。
この方の場合、結婚してからですから、結婚後の生活の変化が関係しています。一度転居していますから、住宅そのものの関係はなさそうです。
二重盲験試験の前に、お盆明けから実家に帰っていました。「被験薬を使ったら悪化した」と感じたのは、ちょうど実家から自宅に戻った時期に一致したためでしょう。
そうすると、たとえばですが、奥さんの使っている化粧品や香料の類、あるいは、実家では使っておらず自宅では使っているもの・・それが何か?は私にはわからないのですが・・。
診断は、仮に「生活環境の中の何か」が原因のアレルギー性接触皮膚炎であるとして、この方の場合は、それにるステロイド外用剤依存・リバウンドが重なっていると考えられます。
その根拠は、H17年に、それまで2年間使っていた手湿疹のステロイド外用剤でリバウンドを起こしている点です。今回、5月にA病院でステロイド外用剤の再処方を受け、約3か月間使用しています。通常、依存やリバウンドになる量ではないですが、依存・リバウンドを起こしやすい人では、起きて不思議ではないです。
その意味では、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方によく似ています。最初何らかの原因によるアレルギー性接触皮膚炎があり、ステロイド外用、たまたま依存・リバウンドを起こしやすいタイプであったために、中止によってリバウンドが重なり、ただでさえややこしい病像をさらに複雑にしているのだろう、と私は現時点では判断します。
この方の経過で残念な点は、過去の皮疹の写真を手元にまったく残していないことです。「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方は、写真を多く残していたので、私も解釈しやすかったです。文章情報だけですと、皮膚科医ならだれでもそうでしょうが、とてももどかしいです。皮疹という画像で時間経過を把握する癖がついているからです。
皆さん、くれぐれも、将来のために、ときどきでいいですから、ご自身の皮疹を写真にとって残しておいてください。後日、私のような皮膚科医が経過を把握するのに、非常に助かります。
それで、この方の場合、クロフィブラートの二重盲験対象として適切かどうか?(アトピー性皮膚炎といえるかどうか?)以前に、自宅で生活する限りは皮疹が安定しなくて、その意味で試験対象として不適当と思うので、まずは、実家でしばらく生活してみるように強く勧めました。
その上で、良くなってしまうようであれば、これはクロフィブラート軟膏の試験対照ではありません。原因探しの問題です。「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方のように、アトピー性皮膚炎様の皮疹が軽度残って安定するようであれば、その時点でクロフィブラート軟膏の二重盲験試験再開、ということにしたいと考えます。
なお、この方の場合も、「原因不明な皮膚炎に対する良心的皮膚科医の定石」として、Y病院で金属アレルギーパッチテストが行われていますが陰性でした。また、病巣感染については、虫歯が一つ残っているかもしれないということだったので、近所の歯医者受診を勧めましたが、根尖膿瘍などの病変は見つかりませんでした。
原因不明のアレルギー性接触性皮膚炎の場合、日常生活物質の中の、アレルギー頻度の高い物質を20~30種類集めて、「標準パッチテスト」としてやってみることがあります。昔、国立病院勤務医時代には、やっていたのですが、私の経験からは、なかなかこれで思いもかけない原因が判明した、というケースは無かったです。
昔、昭和40年代から50年代にかけては、こういう接触皮膚炎のアレルゲン探しの名人のような皮膚科医が何人もいて、職人技を競うように学会発表が続いたものです(以前紹介した須貝先生はその一人→こちら)。
最近では、「茶のしずく」石鹸での小麦粉感作の解明が鮮やかでしたね。たぶん、小麦アレルギーの患者が「これを使うようになってからなんですけど」と、石鹸を差出し、担当医が成分に「小麦粉」とあるのを見て、直観的に「これだ」とひらめいたのでしょう。
今回紹介した方も、何か原因はあるはずではあるのですが、今のところ、私の力不足もあり、解明に至っていません。
一応、「アレルギー性接触性皮膚炎+ステロイド外用剤のリバウンド」と、私としては診断しておきます。
「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方も、今回紹介した方も、ステロイド外用剤で依存を起こしやすいのだろうから、今後もステロイド外用剤は再使用しないほうが無難でしょう。
ケース5や13の方々は、ステロイド外用剤によるコントロールでも全然問題ない(使わなければならないということではない。患者の選択による)のですが、上記のタイプの方々には、私は「ステロイドは使わないほうがいい」と、はっきりと言えます。
2012.10.05
パッチテストの判定にいらっしゃった日(二日後)には、湿疹は少し治まっていました。
以上の経過から、私が考えたことを記します。まず、もともとアトピー性皮膚炎は無いです。「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方と同じです。
この方と、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方との一番の違いは、H18頃、およびH20~22の頃は、まったく皮膚炎は治まっていた点です。アトピーやリバウンドの経過というのは、一連の「物語」となっていることが多いのですが、この方の経過は連続していません。断続的で、その一つ一つが小さな物語として完結している感じです。
こういうケースの場合、一番考えやすいのは、生活環境中の何かに対する、アレルギー性接触皮膚炎です。何か原因物質が生活環境中にONになると湿疹が出て、OFFになると消えます。その「何か」が解らないのですが・・。
アレルギー性接触皮膚炎というのは、思いもかけない原因で起こります。たとえば、おばあちゃんの慢性の顔面の湿疹の原因が、毎日仏壇にあげていたお線香に含まれる香料であった、といった例もあります。
解決法は、まず患者自身が「これではないか?」と疑うことです。疑わしいものがあれば、その生活用品の成分を確認して、パッチテストを行うことで、原因確定に至ります。
しかし、患者自身が、何も心当たりがない、気が付かない、となると、医者もお手上げです。パッチテストしようにも手がかりが無いからです。
この方の場合、結婚してからですから、結婚後の生活の変化が関係しています。一度転居していますから、住宅そのものの関係はなさそうです。
二重盲験試験の前に、お盆明けから実家に帰っていました。「被験薬を使ったら悪化した」と感じたのは、ちょうど実家から自宅に戻った時期に一致したためでしょう。
そうすると、たとえばですが、奥さんの使っている化粧品や香料の類、あるいは、実家では使っておらず自宅では使っているもの・・それが何か?は私にはわからないのですが・・。
診断は、仮に「生活環境の中の何か」が原因のアレルギー性接触皮膚炎であるとして、この方の場合は、それにるステロイド外用剤依存・リバウンドが重なっていると考えられます。
その根拠は、H17年に、それまで2年間使っていた手湿疹のステロイド外用剤でリバウンドを起こしている点です。今回、5月にA病院でステロイド外用剤の再処方を受け、約3か月間使用しています。通常、依存やリバウンドになる量ではないですが、依存・リバウンドを起こしやすい人では、起きて不思議ではないです。
その意味では、「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方によく似ています。最初何らかの原因によるアレルギー性接触皮膚炎があり、ステロイド外用、たまたま依存・リバウンドを起こしやすいタイプであったために、中止によってリバウンドが重なり、ただでさえややこしい病像をさらに複雑にしているのだろう、と私は現時点では判断します。
この方の経過で残念な点は、過去の皮疹の写真を手元にまったく残していないことです。「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方は、写真を多く残していたので、私も解釈しやすかったです。文章情報だけですと、皮膚科医ならだれでもそうでしょうが、とてももどかしいです。皮疹という画像で時間経過を把握する癖がついているからです。
皆さん、くれぐれも、将来のために、ときどきでいいですから、ご自身の皮疹を写真にとって残しておいてください。後日、私のような皮膚科医が経過を把握するのに、非常に助かります。
それで、この方の場合、クロフィブラートの二重盲験対象として適切かどうか?(アトピー性皮膚炎といえるかどうか?)以前に、自宅で生活する限りは皮疹が安定しなくて、その意味で試験対象として不適当と思うので、まずは、実家でしばらく生活してみるように強く勧めました。
その上で、良くなってしまうようであれば、これはクロフィブラート軟膏の試験対照ではありません。原因探しの問題です。「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方のように、アトピー性皮膚炎様の皮疹が軽度残って安定するようであれば、その時点でクロフィブラート軟膏の二重盲験試験再開、ということにしたいと考えます。
なお、この方の場合も、「原因不明な皮膚炎に対する良心的皮膚科医の定石」として、Y病院で金属アレルギーパッチテストが行われていますが陰性でした。また、病巣感染については、虫歯が一つ残っているかもしれないということだったので、近所の歯医者受診を勧めましたが、根尖膿瘍などの病変は見つかりませんでした。
原因不明のアレルギー性接触性皮膚炎の場合、日常生活物質の中の、アレルギー頻度の高い物質を20~30種類集めて、「標準パッチテスト」としてやってみることがあります。昔、国立病院勤務医時代には、やっていたのですが、私の経験からは、なかなかこれで思いもかけない原因が判明した、というケースは無かったです。
昔、昭和40年代から50年代にかけては、こういう接触皮膚炎のアレルゲン探しの名人のような皮膚科医が何人もいて、職人技を競うように学会発表が続いたものです(以前紹介した須貝先生はその一人→こちら)。
最近では、「茶のしずく」石鹸での小麦粉感作の解明が鮮やかでしたね。たぶん、小麦アレルギーの患者が「これを使うようになってからなんですけど」と、石鹸を差出し、担当医が成分に「小麦粉」とあるのを見て、直観的に「これだ」とひらめいたのでしょう。
今回紹介した方も、何か原因はあるはずではあるのですが、今のところ、私の力不足もあり、解明に至っていません。
一応、「アレルギー性接触性皮膚炎+ステロイド外用剤のリバウンド」と、私としては診断しておきます。
「手湿疹から始まるリバウンド(ステロイド皮膚症)」の方も、今回紹介した方も、ステロイド外用剤で依存を起こしやすいのだろうから、今後もステロイド外用剤は再使用しないほうが無難でしょう。
ケース5や13の方々は、ステロイド外用剤によるコントロールでも全然問題ない(使わなければならないということではない。患者の選択による)のですが、上記のタイプの方々には、私は「ステロイドは使わないほうがいい」と、はっきりと言えます。
2012.10.05