アトピー性皮膚炎のステロイド外用剤離脱
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自分の皮膚にデルモベートを2週間外用してみた

中間分子量ヒアルロン酸は、私が製作販売している化粧品の主成分です。現在のところ、これを使用した化粧 品は日本では他にありません。
製品名を明示すると、ブログ記事が薬事法第86条(未承認医薬品の広告禁止)に抵触するおそれがあるので、製品名を伏して一 般名である「中間分子量ヒアルロン酸(化粧水)」に置き換えて記事を書いています。関心のあるかたは、お手数ですが検索して探してください。


 先回、中間分子量ヒアルロン酸化粧水を私の親に外用して、老化して萎縮した皮膚の活性化を確認しましたが、なんといっても一番の関心事は、ステロイドを外用して萎縮した皮膚に、中間分子量ヒアルロン酸化粧水は効果があるのか?の検証です。
 中間分子量ヒアルロン酸断片(HAFi)にそのような効果があることは確定した事実なので、これとほぼ同じ分子量サイズのヒアルロン酸水溶液である
中間分子量ヒアルロン酸化粧水でも当然そのはずですが、やはり検証はしておくべきです。
 しかし、実際にヒトの皮膚にステロイドを外用して実験するということは、他人で行うのはどうもためらわれます。それで、自分の皮膚で実験してみました。

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 これが、私の前腕屈側の皮膚をPCNAで免疫染色したものです。茶色に染まっているのが細胞核分裂が旺盛な細胞(PCNA陽性)です。
  
 デルモベートを1日2回、2週間外用したあとは、下図のようになりました。
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 ちょっとびっくりしました。
 Zhengらの文献で既に報告されているので(→こちら)、それなりに萎縮はするだろうと考えてはいたのですが・・皮膚は見た目も触り心地も、まったく変化は感じないのです。しかし、組織を採取して顕微鏡で見てみると、これだけはっきりと表皮というのは萎縮するもののようです。PCNA陽性細胞も非常に少ないです。
 
 ちなみに、私はアトピー性皮膚炎も花粉症も喘息も何もないし、私の血縁家族には誰ひとりアレルギー持ちはいません。私の昔の患者さんならご存知だと思いますが、私の皮膚は本当に綺麗なのです(だから美容外科・美容皮膚科で開業できている)。昔よく女性の患者さんに「先生の肌は嫌味だ!」と言われたものです。
 そのくらい丈夫な私の皮膚が、2週間の外用でこれだけ萎縮するとは・・。これは、医学生あるいは、皮膚科に入局してすぐの若手医師・研修医全てに、実習でやってみてもらうと良いのではないかと感じます。見た目まったく変化は無いようでも、ステロイドというのは外用でこれだけ皮膚を変化させるのだということが、実によく解りました。 
  
 ※「ステロイドによる皮膚の萎縮」というのは、一般的な副作用として記されているところですが、そこでいう「皮膚の萎縮」は、真皮の萎縮を指すのでしょう。
  皮膚には表皮と真皮とがあり、皮膚のふっくら感を出すのは主に真皮です。その主成分はコラーゲンなど間質であり、これが減少すると肉眼的にも触感的にも「萎縮した」と感じます。しかし、表皮というのはもともと薄いので、萎縮しても、肉眼的にはわからないようです。
 「ステロイドによる皮膚の萎縮は2週間後には始まっている」と言うと、「そんな馬鹿な」という皮膚科の先生は多いです。しかし、この場合の「皮膚の萎縮」は表皮の萎縮であり、顕微鏡的な話です。一方、真皮の萎縮が進んで、肉眼的に皮膚が萎縮するまでには、長期を要します。
 ちなみに、表皮の平均的厚さは0.2mmほどで、ハガキの紙よりやや薄い程度です。今回の実験結果では、ほぼ半分くらいに厚さが減じているので0.1mmくらい、これは通常のコピー用紙の厚さです。
 紙は生きた細胞よりも固い素材なので、ハガキとコピー用紙との違いは判りますが、表皮の0.2mmと0.1mmとでは、見た目や上から触った加減では、判断できないのでしょう。


 片腕にはステロイドのみを(上図)、もう片腕にはステロイドと
中間分子量ヒアルロン酸とを重ね塗りしました(下図)。
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 中間分子量ヒアルロン酸を併用した側も、萎縮はするのですが、PCNA陽性細胞は僅かに多いです。なおかつ、表皮基底細胞層の密度が高く、ステロイドで萎縮しながらも、基底細胞層、頑張って分裂増殖に励んでいるなあ、という感じです。
 
 比較のため、上下に並べてみました。

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 次に、フィラグリンを染色した結果です。
 外用前。表皮の上の方の、顆粒細胞層から角層にかけて、フィラグリンが茶色く染色されています。
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 下図は、ステロイドを外用したあとです(中間分子量ヒアルロン酸は無し)。
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 フィラグリンは増加しているように見えます。

 ステロイド外用が、フィラグリンを増加させるのか減少させるのかについて、相反する論文があることは以前から何回も指摘してきました(→こちら)が、どうも、正常皮膚では、ステロイド外用はフィラグリンを増加させるようです。
 その一方、リンパ球浸潤があると、ステロイドはおそらくフィラグリンを減少させます。なぜかというと、ステロイドは炎症反応をTh2にシフトさせ、Th2サイトカインはフィラグリン発現を低下させるからです。 


 さて、
中間分子量ヒアルロン酸にはフィラグリンを増加させる効果があるはずです(→こちら)。下図は、ステロイドと中間分子量ヒアルロン酸を重ね塗りした結果。
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 並べてみます。
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 僅かに、中間分子量ヒアルロン酸併用で、フィラグリンが増加しています。

 さて、以上は、私の皮膚なので、アトピー患者さんの場合ではないのですが、実は、アトピー患者さんにも協力していただいて、
中間分子量ヒアルロン酸外用前後の皮膚を検査させてもらっています。
 
 といっても、ステロイドを使用していないステロイド忌避の患者さんばかりなのですが・・。3名のかたに協力していただいて、
中間分子量ヒアルロン酸と分子量200万付近のヒアルロン酸とを、左右に塗り分けてみました。
 2週間外用していただいて比較してみたのですが、3人とも、表皮は厚く、PCNA陽性細胞は多く分裂は活発です。ステロイド塗ってないですからね・・当たり前ですが。
 フィラグリンについては、発現が悪いです。これは、もともとの素因あるいは、Th2サイトカインによると考えられます。
 2週間外用後、3人のうち2人はまったく変化がなかったのですが、おひとりだけ、フィラグリンが増加しました。

中間分子量ヒアルロン酸外用前。
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 ヒアルプロテクト(200)外用後。
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 拡大像です。外用前。
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 外用後。
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 上は分子量200万付近のヒアルロン酸による結果ですが、従来の中間分子量ヒアルロン酸でも同様でした。
 
 したがって、ステロイドを使用していない忌避のアトピー患者さんにとって、
中間分子量ヒアルロン酸というのは、それによってフィラグリンが増加する患者さんがいる、ということになりそうです。まだ症例数n=3なので、確定ではないですが。
  

 新製品の
分子量200万付近のヒアルロン酸化粧水ですが、まだアンケートの集計途中です。試用後一ヶ月を経てまだアンケート回答いただいていない方は、本ブログのコメント欄を利用して送付よろしくお願いします(コメント欄は非公開設定なので、ブログに反映はされませんが、私のところにメールとして届きます)。
 一応、途中経過として一言申し添えますと、使い心地については、従来のものと200と半々くらいの人気です。さっぱり系が好きかねっとり系が好きか、といった差のようです。効果については、免疫組織染色で見ている限り、いまのところ差がありません。先回も記した通リ、ブロードバンドな分子量を含むためなのでしょう。

2013.11.09

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