アトピー性皮膚炎の表皮ではステロイドレセプター(GRα)の発現が弱い
Glucocorticoid receptors GRα and GRβ are expressed in inflammatory dermatoses.
Kubin ME, Hägg PM,et al,Eur J Dermatol. 2016 Jan-Feb;26(1):21-7
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26711698
以前「塗っても効かないーステロイド抵抗性」の記事(→こちら)で紹介したHägg先生らの新しい論文です。先回はアトピー性皮膚炎の患者の末梢血中の白血球のステロイドレセプターの分析だったのですが、今回は表皮についての研究です。
「ス テロイドが効かなくなる」=ステロイド抵抗性という現象は、喘息や自己免疫疾患などの病気では受け入れられておりまして、その機序の一つに、ステロイドの レセプター(GR)の変容があります。GRαは有効なレセプターですが、GRβは無効なレセプターでステロイドにくっつきはしますが作用はしません。ステロイド抵抗性に陥った患者の白血球を分析するとGRβの率が上昇しています。
Hägg先生らの先回の研究は、ステロイド治療で難治性のアトピー性皮膚炎の白血球でも同様のことが起きているのではないか?という検証でした。
一方、ほぼ同時期に、大阪大学の乾先生が、特殊な一例ではありますが、ステロイド抵抗性の難治性アトピー患者の末梢血のGRパターンを解析しています。その結果は、GRαGRβとも、発現が低下しているということでした(→こちら)。
今 回Hägg先生らは、アトピー患者に二週間ステロイドを内服させています。その前後の症状の改善度から、ステロイド抵抗性と考えられるグループを振り分 け、表皮のGRαとGRβを染色することで、「ステロイド抵抗性の患者ではGRβの発現が強い」という結果を出そうと考えたのだと思います。
ところが結果は、ステロイド内服治療前後で表皮のGRαGRβとも変化は見られなかったというものでした。そしてHägg先生らは「アトピー性皮膚炎におけるステロイド抵抗性は表皮のGRβが増加するためではなさそうだ」と結論しています。
ネガティブデータであり残念、という気持ちが伝わってくる論文ではありますが、私はこの中に大変重要なデータが含まれているような気がします。それは、対照として調べたほかの皮膚疾患に比べて、アトピー性皮膚炎患者では、GRα、GRβの発現が明らかに低そうだ、という点です。
Kubin ME, Hägg PM,et al,Eur J Dermatol. 2016 Jan-Feb;26(1):21-7
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/26711698
以前「塗っても効かないーステロイド抵抗性」の記事(→こちら)で紹介したHägg先生らの新しい論文です。先回はアトピー性皮膚炎の患者の末梢血中の白血球のステロイドレセプターの分析だったのですが、今回は表皮についての研究です。
「ス テロイドが効かなくなる」=ステロイド抵抗性という現象は、喘息や自己免疫疾患などの病気では受け入れられておりまして、その機序の一つに、ステロイドの レセプター(GR)の変容があります。GRαは有効なレセプターですが、GRβは無効なレセプターでステロイドにくっつきはしますが作用はしません。ステロイド抵抗性に陥った患者の白血球を分析するとGRβの率が上昇しています。
Hägg先生らの先回の研究は、ステロイド治療で難治性のアトピー性皮膚炎の白血球でも同様のことが起きているのではないか?という検証でした。
一方、ほぼ同時期に、大阪大学の乾先生が、特殊な一例ではありますが、ステロイド抵抗性の難治性アトピー患者の末梢血のGRパターンを解析しています。その結果は、GRαGRβとも、発現が低下しているということでした(→こちら)。
今 回Hägg先生らは、アトピー患者に二週間ステロイドを内服させています。その前後の症状の改善度から、ステロイド抵抗性と考えられるグループを振り分 け、表皮のGRαとGRβを染色することで、「ステロイド抵抗性の患者ではGRβの発現が強い」という結果を出そうと考えたのだと思います。
ところが結果は、ステロイド内服治療前後で表皮のGRαGRβとも変化は見られなかったというものでした。そしてHägg先生らは「アトピー性皮膚炎におけるステロイド抵抗性は表皮のGRβが増加するためではなさそうだ」と結論しています。
ネガティブデータであり残念、という気持ちが伝わってくる論文ではありますが、私はこの中に大変重要なデータが含まれているような気がします。それは、対照として調べたほかの皮膚疾患に比べて、アトピー性皮膚炎患者では、GRα、GRβの発現が明らかに低そうだ、という点です。
実際の染色結果は下図です。ステロイドレセプターは細胞質内および核内にあります。茶色の染まりがステロイドレセプターを示します。
私は以前、「表皮はステロイドを自己産生している。ステロイドを長期連用すると、この機能が損なわれ、ステロイドを中止した後に表皮がステロイド不足に陥 り、リバウンドの原因となる」という仮説をたて、根拠として何例かの患者の表皮のコルチゾール染色を報告しました(→こちら)が、私の仮説で解釈しにくい現象がときどきあります。
それは下記のような症例です。この方は10年ほどステロイドを塗り続けており、ここ半年ほどは毎月100g以上になるとのことでした。阪南病院に入院して脱ステする予定で、その途中にわざわざ名古屋に寄って生検に協力していただきました。
写真は肘で、皮疹部と無疹部双方から生検しました。
それは下記のような症例です。この方は10年ほどステロイドを塗り続けており、ここ半年ほどは毎月100g以上になるとのことでした。阪南病院に入院して脱ステする予定で、その途中にわざわざ名古屋に寄って生検に協力していただきました。
写真は肘で、皮疹部と無疹部双方から生検しました。
無疹部の組織像です。表皮はステロイド外用の影響のために委縮しています。コルチゾール産生(下段)は部分的に欠損がみられます。典型的なステロイド依存の状態です。
皮疹部の組織像は下図です。無疹部とは打って変わって、表皮は肥厚し、不全角化が著明です。私の仮説では、ステロイドが相対的に減少したときの像だと考えられます。
しかしこの方、皮疹部と無疹部は近接しているし、その意味でこの二か所のステロイド外用履歴はほぼ同じと思います。それなのに一方はステロイド依存でステロイドが効きすぎている状態にあり、他方はリバウンドでステロイドが相対的に足らない状態にあることになります。
解釈としては二つあります。一つは、皮疹部のほうは、何らかの外的刺激に強くさらされた部である可能性です。もう一つは、ステロイドレセプターの発現の問題です。
同じ量のステロイド外用履歴でも、ステロイドレセプターが少なければ、そこでは相対的なステロイド不足となり、リバウンド様の表皮(肥厚と不全角化)となるでしょう。皮膚のステロイドレセプターの分布には、濃い薄いがあるのかもしれません。
さ らに言えば、アトピー性皮膚炎の患者の表皮にステロイドレセプターが少ないということは、アトピー性皮膚炎で湿疹が生じやすい根本原因である可能性もあり ます。内因性のコルチゾール産生が正常であっても、表皮が相対的にステロイド不足に陥り、肥厚と不全角化を生じやすいということだからです。
この点、Hägg先生らが気が付いているのかどうか解りません。メールを送って質問してみようと思います。
また、乾先生の報告された症例も、振り返ってみると興味深いです。表皮を調べると、末梢血同様ステロイドレセプターが消滅しているのかもしれません。レセプターが無ければいくらステロイドを塗っても反応のしようがないでしょう。
ちなみに、昨日はKLKという酵素の観点からのリバウンド現象へのアプローチのお話でした(→こちら)。 ステロイドを外用するとKLK6が増えてそれがステロイドによる皮膚萎縮にあがらうように分裂増殖に働きますから、ステロイドを中止したときにばねが反発するように表皮が肥厚するだろうというお話でしたね。いろいろな説がありますが、それらは相対立するものではなく、切込み方が違うのだと思います。皆がいろいろな観点から研究していけば、いずれはパズルも完成することでしょう。
(2016.10.4記)
解釈としては二つあります。一つは、皮疹部のほうは、何らかの外的刺激に強くさらされた部である可能性です。もう一つは、ステロイドレセプターの発現の問題です。
同じ量のステロイド外用履歴でも、ステロイドレセプターが少なければ、そこでは相対的なステロイド不足となり、リバウンド様の表皮(肥厚と不全角化)となるでしょう。皮膚のステロイドレセプターの分布には、濃い薄いがあるのかもしれません。
さ らに言えば、アトピー性皮膚炎の患者の表皮にステロイドレセプターが少ないということは、アトピー性皮膚炎で湿疹が生じやすい根本原因である可能性もあり ます。内因性のコルチゾール産生が正常であっても、表皮が相対的にステロイド不足に陥り、肥厚と不全角化を生じやすいということだからです。
この点、Hägg先生らが気が付いているのかどうか解りません。メールを送って質問してみようと思います。
また、乾先生の報告された症例も、振り返ってみると興味深いです。表皮を調べると、末梢血同様ステロイドレセプターが消滅しているのかもしれません。レセプターが無ければいくらステロイドを塗っても反応のしようがないでしょう。
ちなみに、昨日はKLKという酵素の観点からのリバウンド現象へのアプローチのお話でした(→こちら)。 ステロイドを外用するとKLK6が増えてそれがステロイドによる皮膚萎縮にあがらうように分裂増殖に働きますから、ステロイドを中止したときにばねが反発するように表皮が肥厚するだろうというお話でしたね。いろいろな説がありますが、それらは相対立するものではなく、切込み方が違うのだと思います。皆がいろいろな観点から研究していけば、いずれはパズルも完成することでしょう。
(2016.10.4記)
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