クロフィブラート(PPARαリガンド)の外用は使えるかもしれない
PPAR(peroxisome proliferator-activated receptor)リガンドについての続きです。
今回の文献は、
Activators of PPARs and LXR decrease the adverse effects of exogenous glucocorticoids on the epidermis. Demerjian
Experimental Dermatology, 18, 643–649,2009
です。
フィラグリン(FIL)、インボルクリン(INV)、ロリクリン(LOR)は、角質細胞の構成要素です。フィラグリンはnatural moisturing factor、インボルクリン・ロリクリンはcornified envelopeに含まれます。これらは、ステロイド外用剤の連用によって、発現が低下します。以前の記事(→こちら)でも解説しました。
下図の左列と中列がこのことを示しています。Vehicleというのは基剤のことで、GCはステロイド外用剤です。茶色に染まっているのが、FIL、INV、LORで、GCではいずれも低下しています。
ステロイド外用剤にlipids(パルミチン酸とコレステロールとセラミドを1:1:1で混ぜたもの)を併用しても、結果は変わりませんでした。生理学的に皮脂に近い保湿剤を加えても、ステロイド外用剤によるこれらの蛋白質の発現低下は、食い止められないということを示しています。
今回の文献は、
Activators of PPARs and LXR decrease the adverse effects of exogenous glucocorticoids on the epidermis. Demerjian
Experimental Dermatology, 18, 643–649,2009
です。
フィラグリン(FIL)、インボルクリン(INV)、ロリクリン(LOR)は、角質細胞の構成要素です。フィラグリンはnatural moisturing factor、インボルクリン・ロリクリンはcornified envelopeに含まれます。これらは、ステロイド外用剤の連用によって、発現が低下します。以前の記事(→こちら)でも解説しました。
下図の左列と中列がこのことを示しています。Vehicleというのは基剤のことで、GCはステロイド外用剤です。茶色に染まっているのが、FIL、INV、LORで、GCではいずれも低下しています。
ステロイド外用剤にlipids(パルミチン酸とコレステロールとセラミドを1:1:1で混ぜたもの)を併用しても、結果は変わりませんでした。生理学的に皮脂に近い保湿剤を加えても、ステロイド外用剤によるこれらの蛋白質の発現低下は、食い止められないということを示しています。
下は、PCNA陽性細胞(分裂の活発な細胞)の数をみたもので、やはり、ステロイドの外用によって減少しますが、lipids(保湿剤)の併用によって改善はしません。
※ここで、思い出していただきたいのは、以前記した(→こちら)、ラメラ構造をもったlipidsです。同じlipidsでも、ラメラ構造を有していると、PCNA陽性細胞数は改善するようです。角層脂質の興味深いところです。
さて、話をPPARリガンドに戻します。PPARリガンドには、いくつか種類がありますが、先回から注目しているのは、PPARαリガンドであるクロフィブラート(clofibrate)です。なぜ注目しているかと言うと、既に抗脂血症薬として市販されており、安価に入手可能だからです。
ステロイド外用剤に、クロフィブラート外用を併用すると、FIV、INV、LORいずれも発現が回復します(下図)。
さて、話をPPARリガンドに戻します。PPARリガンドには、いくつか種類がありますが、先回から注目しているのは、PPARαリガンドであるクロフィブラート(clofibrate)です。なぜ注目しているかと言うと、既に抗脂血症薬として市販されており、安価に入手可能だからです。
ステロイド外用剤に、クロフィブラート外用を併用すると、FIV、INV、LORいずれも発現が回復します(下図)。
PCNA陽性細胞数も増加します。
ラメラ構造をもたない脂質混合物(lipids)にはなかった、ステロイド外用剤による表皮への副作用の防止効果があります。
論文の最後に、様々なPPARリガンドによるステロイド外用剤の副作用防止効果が、まとめられています。上段右の「GC+PPARα」が、クロフィブレート外用の効果です。「Barrier recovery」以外は全て増加させ、ステロイド外用剤の副作用の防止効果があります。
論文の最後に、様々なPPARリガンドによるステロイド外用剤の副作用防止効果が、まとめられています。上段右の「GC+PPARα」が、クロフィブレート外用の効果です。「Barrier recovery」以外は全て増加させ、ステロイド外用剤の副作用の防止効果があります。
「GC+lipids」でみられて「GC+PPARα」でみられない「Barrier recovery」とは、どういう効果かというと、皮膚にセロテープを貼っては剥がすということを繰り返したあとでの、TEWLの回復の様子のことです。下図はKaoの論文(→こちら)中のもので、たとえばClobetasol/Lipidsでは、最初にClobetasol(ステロイド外用剤)を塗って、次にtape strippingを行い、そのあとでLipidsを外用して、TEWLの回復過程をみています。
Vehiclesに比べて、Lipids(Demerjianの論文中のLipidsと同じ三種類の脂質の非ラメラ構造の混合物)外用では、TEWL回復が良いことを示しています。これは結局、ステロイド外用剤でダメージを受けた表皮の改善と言うよりは、Lipidsそのものの保湿機能が優れている、ということなのでしょう。
以上から、Lipidsにクロフィブラートを混和した「保湿剤」が、ステロイド外用剤による副作用、すなわちリバウンドを防止するためには、理論的には一番良さそうです。Kim先生の論文に記されているラメラ構造をもったLipidsならさらに良いでしょう。
しかし、コストを考えると、セラミドを1/3配合の保湿剤は、非常に高価につくので、クロフィブレート単独のほうが現実的です。
それでは、なぜ、簡単に臨床応用できそうな、このクロフィブラート軟膏が、広まっていないのでしょうか?この点が私は非常に不思議でした。
「topical」と「PPAR」をキーワードで論文検索すると、尋常性乾癬の皮疹にPPARを外用するパイロットスタディを行ってみたが無効であった、というものが引っ掛かりました。
Effect of Topical PPARβ/δ and PPARγ Agonists on Plaque Psoriasis. Kuenzli, Dermatology 2003;206:252–256.
これは、PPARβ/δとPPARγに関するものですが、文中に「PPARα(クロフィブラート)についても以前試みたがやはり無効であった」という一文があり、学会報告もなされた旨引用があります。
Topical clofibrate for psoriasis. 2nd Joint Meet Int Psoriasis Symp Eur Congr Psoriasis, San Francisco, june 2001.
また、先日紹介した波多野先生の論文中にも、「クロフィブラートは、単独では、軽い皮膚炎は抑えるが、強い皮膚炎を抑える力は無い」というデータが示されています。
PPARリガンドが、皮膚のホメオスタシスの安定化に寄与することは、古くからわかっていたが、単独で、乾癬や皮膚炎を抑えるまでの力は無い(弱い)ようなので、お蔵入りになっていたという感じです。
これを見直して、ステロイド外用剤の副作用防止に役立つのではないか?と試みて動物実験レベルではありますが結果を出したのが、先日の波多野先生の論文ということのようです。
問屋に問い合わせたら、クロフィブラート250mg1錠あたりの納入価は、10円に満たないようです。これなら、十分保湿剤に添加して使えます。白色ワセリンでも、亜鉛華単軟膏でも、自分の現状の皮膚に合って使用中のものに混じてやればいいはずです。
既に依存に陥ってしまってリバウンドと闘っている最中のひとに、役立つかどうかはわかりませんが、いまだ依存に陥ってはいないが、ステロイドと保湿剤とを交互に使用しながら、依存やリバウンドの恐怖に怯えているひとには、朗報だし、知らないひとには使うべきだと教えてあげてよいくらいのことかもしれません。
外用した場合の、接触皮膚炎の頻度など、検討すべき課題はもちろんありますが、とりあえず高価なものではないし、私も一箱(100錠)購入して軟膏にして、健常人皮膚での使用感をまず確認してみようと思います。
2011.09.05
以上から、Lipidsにクロフィブラートを混和した「保湿剤」が、ステロイド外用剤による副作用、すなわちリバウンドを防止するためには、理論的には一番良さそうです。Kim先生の論文に記されているラメラ構造をもったLipidsならさらに良いでしょう。
しかし、コストを考えると、セラミドを1/3配合の保湿剤は、非常に高価につくので、クロフィブレート単独のほうが現実的です。
それでは、なぜ、簡単に臨床応用できそうな、このクロフィブラート軟膏が、広まっていないのでしょうか?この点が私は非常に不思議でした。
「topical」と「PPAR」をキーワードで論文検索すると、尋常性乾癬の皮疹にPPARを外用するパイロットスタディを行ってみたが無効であった、というものが引っ掛かりました。
Effect of Topical PPARβ/δ and PPARγ Agonists on Plaque Psoriasis. Kuenzli, Dermatology 2003;206:252–256.
これは、PPARβ/δとPPARγに関するものですが、文中に「PPARα(クロフィブラート)についても以前試みたがやはり無効であった」という一文があり、学会報告もなされた旨引用があります。
Topical clofibrate for psoriasis. 2nd Joint Meet Int Psoriasis Symp Eur Congr Psoriasis, San Francisco, june 2001.
また、先日紹介した波多野先生の論文中にも、「クロフィブラートは、単独では、軽い皮膚炎は抑えるが、強い皮膚炎を抑える力は無い」というデータが示されています。
PPARリガンドが、皮膚のホメオスタシスの安定化に寄与することは、古くからわかっていたが、単独で、乾癬や皮膚炎を抑えるまでの力は無い(弱い)ようなので、お蔵入りになっていたという感じです。
これを見直して、ステロイド外用剤の副作用防止に役立つのではないか?と試みて動物実験レベルではありますが結果を出したのが、先日の波多野先生の論文ということのようです。
問屋に問い合わせたら、クロフィブラート250mg1錠あたりの納入価は、10円に満たないようです。これなら、十分保湿剤に添加して使えます。白色ワセリンでも、亜鉛華単軟膏でも、自分の現状の皮膚に合って使用中のものに混じてやればいいはずです。
既に依存に陥ってしまってリバウンドと闘っている最中のひとに、役立つかどうかはわかりませんが、いまだ依存に陥ってはいないが、ステロイドと保湿剤とを交互に使用しながら、依存やリバウンドの恐怖に怯えているひとには、朗報だし、知らないひとには使うべきだと教えてあげてよいくらいのことかもしれません。
外用した場合の、接触皮膚炎の頻度など、検討すべき課題はもちろんありますが、とりあえず高価なものではないし、私も一箱(100錠)購入して軟膏にして、健常人皮膚での使用感をまず確認してみようと思います。
2011.09.05