プロアクティブ治療は誤解されやすい
Twice weekly fluticasone propionate added to emollient maintenance treatment to reduce risk of relapse in atopic dermatitis: randomised, double blind, parallel group study. Berth-Jones J, BMJ. 2003 Jun 21;326(7403):1367.
http://www.bmj.com/content/326/7403/1367.full
Proactive treatment of atopic dermatitis in adults with 0.1% tacrolimus ointment. Wollenberg A, Allergy. 2008 Jul;63(7):742-50.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1398-9995.2008.01683.x/full
アトピー性皮膚炎のプロアクティブ治療(proactive treatment)についての解説です。表題は「プロアクティブ治療は誤解されやすい」としました。実はこのproactiveというネーミング自体が、大きな誤解の元だと、私は思うのですが・・。proactiveは「先のことを考えた、事前に対策を講じる」という意味で、対義語としてはreactive「反動、反応の」が用いられます。これらの語を用いた時点で既に、どうしてもproactive治療のほうが、reactive治療より好印象を与えます。もっとも、日本では「プロアクティブ」という語自体になじみが薄いので、それほど危惧することでもないのかもしれません。
プロアクティブ治療という語が用いられたのは、私の知る限り2008年のWollenbergの論文からです。それに先立って、2003年のBerth-Jonesらの論文がありますが、そこでは“twice weekly”という語がよく出てくるので、わたしは「週二回外用療法」 という名前のほうが、穏当だと考えます。
「プロアクティブ治療は誤解されやすい」と記したのは、語感の問題だけではありません。ほかにもいくつかあります。上記二論文を引用しながら、その理由を指摘していきますが、まずは大きな点をまとめておきます。
1)プロアクティブ治療は、古江論文で言うところの「コントロール良好群」すなわちステロイドに良く反応し、いまだ依存や抵抗性に陥っていない患者群のみを対象とした外用療法である。
2)プロアクティブ治療は、週二回という外用回数に大きな意味があるのであって、「皮疹が消失していても塗る」という手法から連想して、緩解期の軽度の皮疹をも、しっかりとステロイドやプロトピックで抑え込んだほうがいいということだ、という様な誤った解釈をすべきではない。
ここは重要なポイントだと私は考えます。論文を読むと解りますが、プロアクティブ治療と言うのは、週二回のステロイドまたはプロトピックの外用は、基剤だけよりも皮疹を改善する、ということであって、むしろ、皮疹が軽度の場合には、ステロイドまたはプロトピックの外用は、毎日ではなく週二回で十分だ、と理解したほうが、日本の場合には適切です。日本では欧米に比べ国民皆保険で薬剤が安価に入手できるため、欧米では外来通院や外用を止めてしまうであろう程度の湿疹に対しても、弱めのステロイドを毎日外用するようにと指導されることが多いからです。プロアクティブ治療は、医療費の高い欧米において、少しよくなると通院や外用をやめて保湿剤だけで済ませてしまう患者対策として考えられたものです。日本と欧米の車の洗車の習慣の違いを想像してみるといいかもしれません。文化や医療環境の違いが根底にあります。その意味でも「proactive」という語は、日本でこの治療を紹介する場合にふさわしくない、誤解を招きやすいと感じます。 日本皮膚科学会の策定した治療ガイドラインの記述にも原因があります。ガイドラインの「ステロイド外用剤」の項には、「外用中止:炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,症状をみながら漸減あるいは間欠投与を行い徐々に中止する.」とあります。この具体性を欠き根拠の無い不安を煽る記述のため、日本では、欧米と異なり、悪化時の皮疹が沈静化したあとも、ステロイド外用剤の継続使用が指導されることが多いです。九州大学のHPが掲げる「標準治療」の解説では、この不適切な記述を補足する意味で、ガイドラインに反するアプローチがわざわざ併記されているくらいです(→こちら)。
3)「プロアクティブ治療はリアクティブ治療に比べ、悪化時の薬の使用量が減る結果、総外用量はかえって少なくなる」、という逆説は成立しない。
この逆説は多くの人が思いつくでしょうが、論文のデータを見ると総外用量はプロアクティブ治療のほうが多いです。一方で、治療費総額はプロアクティブ治療のほうが安くなっています。悪化時の入院などの額が減るからのようです。薬剤費が増えて治療費総額が安くなりますから、製薬企業・健康保険企業の双方にとって良い話です。
下世話な話のように聞こえるかもしれませんが、欧米の英語論文を読むときには、常にこういった視点が必要です。医療を取り巻く環境が、日本とは大きく異なるからです。ここ数年ステロイドの依存や抵抗性の研究論文が「解禁」になってきているのも、医学の進歩もありますが、ステロイドに変わる新薬が次々と開発されてきている影響も大きいです。
もちろん、プロアクティブ治療は、患者にとっても、大きな悪化が少なくなり、普段の皮疹も改善しますから、メリットはあります。
実際、週二回外用療法であるという本質を、誤解しさえしなければ、プロアクティブ療法は、依存や抵抗性に陥りにくいものだと思います。ただし、2)の点を誤解して、「軽い皮疹をも、薬でしっかり押さえ込むことがプロアクティブ治療だ」と誤解した場合には、依存や抵抗性へとつながります。ですから、わたしは、プロアクティブ治療ではなく「週二回外用療法」というネーミングのほうが良い、と思います。
プロアクティブ治療の論文は、いくつかありますが、研究デザインは、基本的に同じです。
下図は、2008年のWollenbergの論文のものですが、まず「open label period(OLP)」の期間を設け、数週間(下図では6週間以内)の間、プロトピック軟膏(またはBerth-Jonesらの論文ではステロイド外用剤)で皮疹を沈静化させます。ここで、うまくコントロールできない患者、すなわち、古江先生の調査でいうところの「コントロール不良群」は、プロアクティブ治療の対象となりません。遅くとも6週間後には、皮疹は、軽微またはほとんど消失していなければなりません。古江先生の「コントロール良好群」は、6ヶ月の治療で「改善または不変」ですから、プロアクティブ治療の適応患者というのは、古江先生の「コントロール良好群」のうちでも、とくに薬剤への反応のよい患者ということになります。
http://www.bmj.com/content/326/7403/1367.full
Proactive treatment of atopic dermatitis in adults with 0.1% tacrolimus ointment. Wollenberg A, Allergy. 2008 Jul;63(7):742-50.
http://onlinelibrary.wiley.com/doi/10.1111/j.1398-9995.2008.01683.x/full
アトピー性皮膚炎のプロアクティブ治療(proactive treatment)についての解説です。表題は「プロアクティブ治療は誤解されやすい」としました。実はこのproactiveというネーミング自体が、大きな誤解の元だと、私は思うのですが・・。proactiveは「先のことを考えた、事前に対策を講じる」という意味で、対義語としてはreactive「反動、反応の」が用いられます。これらの語を用いた時点で既に、どうしてもproactive治療のほうが、reactive治療より好印象を与えます。もっとも、日本では「プロアクティブ」という語自体になじみが薄いので、それほど危惧することでもないのかもしれません。
プロアクティブ治療という語が用いられたのは、私の知る限り2008年のWollenbergの論文からです。それに先立って、2003年のBerth-Jonesらの論文がありますが、そこでは“twice weekly”という語がよく出てくるので、わたしは「週二回外用療法」 という名前のほうが、穏当だと考えます。
「プロアクティブ治療は誤解されやすい」と記したのは、語感の問題だけではありません。ほかにもいくつかあります。上記二論文を引用しながら、その理由を指摘していきますが、まずは大きな点をまとめておきます。
1)プロアクティブ治療は、古江論文で言うところの「コントロール良好群」すなわちステロイドに良く反応し、いまだ依存や抵抗性に陥っていない患者群のみを対象とした外用療法である。
2)プロアクティブ治療は、週二回という外用回数に大きな意味があるのであって、「皮疹が消失していても塗る」という手法から連想して、緩解期の軽度の皮疹をも、しっかりとステロイドやプロトピックで抑え込んだほうがいいということだ、という様な誤った解釈をすべきではない。
ここは重要なポイントだと私は考えます。論文を読むと解りますが、プロアクティブ治療と言うのは、週二回のステロイドまたはプロトピックの外用は、基剤だけよりも皮疹を改善する、ということであって、むしろ、皮疹が軽度の場合には、ステロイドまたはプロトピックの外用は、毎日ではなく週二回で十分だ、と理解したほうが、日本の場合には適切です。日本では欧米に比べ国民皆保険で薬剤が安価に入手できるため、欧米では外来通院や外用を止めてしまうであろう程度の湿疹に対しても、弱めのステロイドを毎日外用するようにと指導されることが多いからです。プロアクティブ治療は、医療費の高い欧米において、少しよくなると通院や外用をやめて保湿剤だけで済ませてしまう患者対策として考えられたものです。日本と欧米の車の洗車の習慣の違いを想像してみるといいかもしれません。文化や医療環境の違いが根底にあります。その意味でも「proactive」という語は、日本でこの治療を紹介する場合にふさわしくない、誤解を招きやすいと感じます。 日本皮膚科学会の策定した治療ガイドラインの記述にも原因があります。ガイドラインの「ステロイド外用剤」の項には、「外用中止:炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,症状をみながら漸減あるいは間欠投与を行い徐々に中止する.」とあります。この具体性を欠き根拠の無い不安を煽る記述のため、日本では、欧米と異なり、悪化時の皮疹が沈静化したあとも、ステロイド外用剤の継続使用が指導されることが多いです。九州大学のHPが掲げる「標準治療」の解説では、この不適切な記述を補足する意味で、ガイドラインに反するアプローチがわざわざ併記されているくらいです(→こちら)。
3)「プロアクティブ治療はリアクティブ治療に比べ、悪化時の薬の使用量が減る結果、総外用量はかえって少なくなる」、という逆説は成立しない。
この逆説は多くの人が思いつくでしょうが、論文のデータを見ると総外用量はプロアクティブ治療のほうが多いです。一方で、治療費総額はプロアクティブ治療のほうが安くなっています。悪化時の入院などの額が減るからのようです。薬剤費が増えて治療費総額が安くなりますから、製薬企業・健康保険企業の双方にとって良い話です。
下世話な話のように聞こえるかもしれませんが、欧米の英語論文を読むときには、常にこういった視点が必要です。医療を取り巻く環境が、日本とは大きく異なるからです。ここ数年ステロイドの依存や抵抗性の研究論文が「解禁」になってきているのも、医学の進歩もありますが、ステロイドに変わる新薬が次々と開発されてきている影響も大きいです。
もちろん、プロアクティブ治療は、患者にとっても、大きな悪化が少なくなり、普段の皮疹も改善しますから、メリットはあります。
実際、週二回外用療法であるという本質を、誤解しさえしなければ、プロアクティブ療法は、依存や抵抗性に陥りにくいものだと思います。ただし、2)の点を誤解して、「軽い皮疹をも、薬でしっかり押さえ込むことがプロアクティブ治療だ」と誤解した場合には、依存や抵抗性へとつながります。ですから、わたしは、プロアクティブ治療ではなく「週二回外用療法」というネーミングのほうが良い、と思います。
プロアクティブ治療の論文は、いくつかありますが、研究デザインは、基本的に同じです。
下図は、2008年のWollenbergの論文のものですが、まず「open label period(OLP)」の期間を設け、数週間(下図では6週間以内)の間、プロトピック軟膏(またはBerth-Jonesらの論文ではステロイド外用剤)で皮疹を沈静化させます。ここで、うまくコントロールできない患者、すなわち、古江先生の調査でいうところの「コントロール不良群」は、プロアクティブ治療の対象となりません。遅くとも6週間後には、皮疹は、軽微またはほとんど消失していなければなりません。古江先生の「コントロール良好群」は、6ヶ月の治療で「改善または不変」ですから、プロアクティブ治療の適応患者というのは、古江先生の「コントロール良好群」のうちでも、とくに薬剤への反応のよい患者ということになります。
注:「day1,Week1,3,and 6」などは診察予定日。
OLPの次に、「disease control period(DCP)」が続きます。ここでは、RCT(ranndamized control trial)が行われます。患者は、a)プロトピック(Berth-Jonesらの論文ではステロイド外用剤)b)基剤、のいずれかを、どちらか解らないように渡され、これを週二回外用します。既に皮疹が消失していれば元に皮疹があったところに、軽い皮疹が出ていれば、そこにも外用します。ある程度以上の皮疹が出た場合には、悪化(exacerbation)と判断し、「disease exacerbation period(DEP)」に移行します。OLPと同様、ステロイドまたはプロトピックを毎日外用するというものです。DEPは一週間を限度とし、皮疹が治まったケースは、trialに復帰し継続します。
この一連の流れを振り返ると、プロアクティブ治療というのは、対象を、プロトピック(またはステロイド)に良好に反応する患者に限った、週二回外用が有効であるか?を検証したRCT研究である、と言えます。最初のOLPは、それに続くDCPにエントリーする患者群を選別する仕組みに、実はなっている、ということです。おそらく研究デザインを組んだひとに、その意図は無かったのでしょうが、結果としてそうなってしまっています。
プロアクティブ治療のDCPにおいては、プロトピック(またはステロイド)を週二回、皮疹がかって存在した部位および軽微な皮疹が存在する部位に外用する、ということになっていますが、どの程度の皮疹までを想定しているのでしょうか?
2003年のBerth-Jonesらの論文では、皮疹の評価にThree Item Severety (TIS) Scoreが用いられており、1)erythema(紅斑) 2)edema or papulations(浮腫または丘疹) 3)excoriation(掻破痕)それぞれについて、0=abscent(なし), 1=mild(軽い), 2=moderate(中くらい), 3=severe(ひどい)の評価を行い、これを合算した価(0~9)として、4以上を悪化(flare or relapse)と判断しています。すなわち、TISscore3以下の患者では、週二回の外用継続という判断であり、決して、皮疹が少しでも出たら、完全に消失するまで毎日外用を再開する、という判断がなされるのではありません。
2008年のWollenbergの論文では、皮疹はInvestigator Global Assessment(IGA)Scoreによって評価されています。それは皮疹を要素に分けずに全体の印象で、0=clear(なし), 1=almost clear(ほとんどなし), 2=mild(軽い), 3=moderate(中くらい),4=severe(悪い), 5=very severe(非常に悪い) の6段階評価するもので、3以上で悪化と判断し、DEPに移行するとしています。2以下では、やはり週二回外用継続です。
評価方法に違いはあるものの、プロアクティブ療法とは、皮疹が軽度に出たら、即、これを毎日の外用で抑えるということではなく、あるレベル以上の悪化が起きるまでは、週二回のステロイドまたはプロトピックを続けましょう、一切使用しないのでも、毎日続けるのでもなく、週二回を守りましょう、という考え方です。皮疹をしっかり抑えるほうではなくて、「週二回」のほうに意味があります。
このようなプロアクティブ治療を行ったときに、どのような利点があるかですが、まず、悪化までの期間や、年間の悪化の回数が減ります。
OLPの次に、「disease control period(DCP)」が続きます。ここでは、RCT(ranndamized control trial)が行われます。患者は、a)プロトピック(Berth-Jonesらの論文ではステロイド外用剤)b)基剤、のいずれかを、どちらか解らないように渡され、これを週二回外用します。既に皮疹が消失していれば元に皮疹があったところに、軽い皮疹が出ていれば、そこにも外用します。ある程度以上の皮疹が出た場合には、悪化(exacerbation)と判断し、「disease exacerbation period(DEP)」に移行します。OLPと同様、ステロイドまたはプロトピックを毎日外用するというものです。DEPは一週間を限度とし、皮疹が治まったケースは、trialに復帰し継続します。
この一連の流れを振り返ると、プロアクティブ治療というのは、対象を、プロトピック(またはステロイド)に良好に反応する患者に限った、週二回外用が有効であるか?を検証したRCT研究である、と言えます。最初のOLPは、それに続くDCPにエントリーする患者群を選別する仕組みに、実はなっている、ということです。おそらく研究デザインを組んだひとに、その意図は無かったのでしょうが、結果としてそうなってしまっています。
プロアクティブ治療のDCPにおいては、プロトピック(またはステロイド)を週二回、皮疹がかって存在した部位および軽微な皮疹が存在する部位に外用する、ということになっていますが、どの程度の皮疹までを想定しているのでしょうか?
2003年のBerth-Jonesらの論文では、皮疹の評価にThree Item Severety (TIS) Scoreが用いられており、1)erythema(紅斑) 2)edema or papulations(浮腫または丘疹) 3)excoriation(掻破痕)それぞれについて、0=abscent(なし), 1=mild(軽い), 2=moderate(中くらい), 3=severe(ひどい)の評価を行い、これを合算した価(0~9)として、4以上を悪化(flare or relapse)と判断しています。すなわち、TISscore3以下の患者では、週二回の外用継続という判断であり、決して、皮疹が少しでも出たら、完全に消失するまで毎日外用を再開する、という判断がなされるのではありません。
2008年のWollenbergの論文では、皮疹はInvestigator Global Assessment(IGA)Scoreによって評価されています。それは皮疹を要素に分けずに全体の印象で、0=clear(なし), 1=almost clear(ほとんどなし), 2=mild(軽い), 3=moderate(中くらい),4=severe(悪い), 5=very severe(非常に悪い) の6段階評価するもので、3以上で悪化と判断し、DEPに移行するとしています。2以下では、やはり週二回外用継続です。
評価方法に違いはあるものの、プロアクティブ療法とは、皮疹が軽度に出たら、即、これを毎日の外用で抑えるということではなく、あるレベル以上の悪化が起きるまでは、週二回のステロイドまたはプロトピックを続けましょう、一切使用しないのでも、毎日続けるのでもなく、週二回を守りましょう、という考え方です。皮疹をしっかり抑えるほうではなくて、「週二回」のほうに意味があります。
このようなプロアクティブ治療を行ったときに、どのような利点があるかですが、まず、悪化までの期間や、年間の悪化の回数が減ります。
これは、Berth-Jonesらの論文中の、fluticazone propionate クリーム(日本では未発売のステロイド外用剤)を用いたプロアクティブ治療のデータです。治療開始からの週数と、その時点までに悪化を起こさなかった患者の割合をグラフにしたものです。例えば、16週の時点では、ステロイドによるプロアクティブ治療群では、悪化を起こさずに持ちこたえた率は8割ですが、ステロイドをまったく用いなかった群では3割弱です。
こちらは、Wollenbergの論文中の、プロトピック軟膏によるプロアクティブ治療の同様なグラフです。Wollenbergの研究デザインにおいては、対照群(基剤を使用)は、悪化時にはDEPに移行してプロトピック治療を行い、良くなったら再びDCPに戻して基剤使用を再開する、という方法が取られており、プロアクティブ治療に対して、「リアクティブ治療」と呼んでいます。プロアクティブ治療は、患者の皮疹の如何に関わらず、週二回の薬物治療を行うという方法で、悪化時には、毎日の薬物治療に切り替え、良くなったらまた週二回に戻します。リアクティブ治療は、ふだんは保湿剤または基剤のみで、悪化時のみ、プロアクティブ治療と同様、毎日薬物治療を行います。Berth-Jonesらの結果と同様、プロアクティブ治療では、リアクティブ治療に比べて、最初の悪化までの期間が延長しています。
上図は、Wollenbergの論文中のもので、プロアクティブ治療一年間の間に、悪化が何回あったかを集計したものです。プロアクティブ治療のほうが、リアクティブ治療よりも、年間悪化回数が少ないです。
上図も、Wollenbergの論文中のもので、DCPの期間中それぞれの時点で、IGAスコア3以上の悪化が、患者全体の何%でみられたか?を示しています(Week2(開始二週間後)では、プロアクティブ治療群の15%、リアクティブ治療群の45%が、IGAスコア3以上の悪化として、いったんDEPに移行して治療を受けています)。12ヶ月までの全経過を通じて、プロアクティブ治療群のほうが、リアクティブ治療群よりも悪化患者の率が少ないです。
ここで興味深い点をひとつ指摘しておきたいと思います。それは、リアクティブ治療群のほうが、悪化率の低下傾向が強い、という点です。さらに、Month24、Month36まで追っていったら、リアクティブ治療は、プロアクティブ治療よりも悪化率が小さくなるのかもしれません。もしそうなら、リアクティブ治療のほうが、プロアクティブ治療よりも、自然治癒に持ち込みやすい、という証明になります。
あるいは、リアクティブ治療の低下傾向は、徐々に小さくなり、プロアクティブ治療とほぼ同じ悪化率になるのかもしれません。それならそれで、プロアクティブ治療がリアクティブ治療より優れているのは、OLPの6週間の薬物治療が行われたあと、1年ちょっとの短い期間のみ、ということになります。
もし、リアクティブ治療の低下傾向が12ヶ月以降は急速に鈍り、いつまでたってもプロアクティブ治療よりも悪化率が高いままであれば、プロアクティブ治療は、リアクティブ治療よりも、永遠に優れている、といえます。
以上、3通りのうち、どれが正解なのかは、12ヶ月以降のデータが無いのでわかりません。
Wollenbergの論文中のこの図が示しているのは、プロトピックの場合のプロアクティブ治療は、リアクティブ治療よりも、最初の12ヶ月に限って言えば、優れている、ということです。それ以降については、上記3つの可能性がともにあり、どちらが優れているかは、わかりません。
ただし、アトピー性皮膚炎の多くが自然治癒傾向があることを考えると、プロアクティブ治療を続けるとしても、どこかに終わり、すなわちプロアクティブ治療よりもリアクティブ治療のほうが優位になる時点があるはずだ、あるべきだ、とは思います。プロアクティブ治療のプログラムに従うと、患者は永遠に週二回の薬物治療を止めることができない、止めるべきではない、ということになり、自然治癒傾向と矛盾するからです。
非常に興味深い問題です。現在、浜松医大小児科の福家先生が、プロアクティブ治療の追試を行っておられるようですが(https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&&recptno=R000006566&language=J)、できればこの点をも明らかにしてほしいものです。
ここで興味深い点をひとつ指摘しておきたいと思います。それは、リアクティブ治療群のほうが、悪化率の低下傾向が強い、という点です。さらに、Month24、Month36まで追っていったら、リアクティブ治療は、プロアクティブ治療よりも悪化率が小さくなるのかもしれません。もしそうなら、リアクティブ治療のほうが、プロアクティブ治療よりも、自然治癒に持ち込みやすい、という証明になります。
あるいは、リアクティブ治療の低下傾向は、徐々に小さくなり、プロアクティブ治療とほぼ同じ悪化率になるのかもしれません。それならそれで、プロアクティブ治療がリアクティブ治療より優れているのは、OLPの6週間の薬物治療が行われたあと、1年ちょっとの短い期間のみ、ということになります。
もし、リアクティブ治療の低下傾向が12ヶ月以降は急速に鈍り、いつまでたってもプロアクティブ治療よりも悪化率が高いままであれば、プロアクティブ治療は、リアクティブ治療よりも、永遠に優れている、といえます。
以上、3通りのうち、どれが正解なのかは、12ヶ月以降のデータが無いのでわかりません。
Wollenbergの論文中のこの図が示しているのは、プロトピックの場合のプロアクティブ治療は、リアクティブ治療よりも、最初の12ヶ月に限って言えば、優れている、ということです。それ以降については、上記3つの可能性がともにあり、どちらが優れているかは、わかりません。
ただし、アトピー性皮膚炎の多くが自然治癒傾向があることを考えると、プロアクティブ治療を続けるとしても、どこかに終わり、すなわちプロアクティブ治療よりもリアクティブ治療のほうが優位になる時点があるはずだ、あるべきだ、とは思います。プロアクティブ治療のプログラムに従うと、患者は永遠に週二回の薬物治療を止めることができない、止めるべきではない、ということになり、自然治癒傾向と矛盾するからです。
非常に興味深い問題です。現在、浜松医大小児科の福家先生が、プロアクティブ治療の追試を行っておられるようですが(https://upload.umin.ac.jp/cgi-open-bin/ctr/ctr.cgi?function=brows&action=brows&&recptno=R000006566&language=J)、できればこの点をも明らかにしてほしいものです。
上図は、Wollenbergの論文中のもので、プロアクティブ治療と、リアクティブ治療とで、薬剤の総使用量を比較したものです。プロアクティブ治療のほうが、総使用量は多いです。2003年のBerth-Jonesらの論文中の考察には、「逆説的ではあるが、この方法は、薬剤の総使用量を、結果として減らすかもしれない」とありますが、その予想は当たらなかったということです。
これは、製薬会社が、プロアクティブ治療(Maintenanceと表現されています)と、アクティブ治療(Standard)との、患者負担コストを試算した表です(www.ispor.org/awards/15meet/ISPOR-TAC-v3.pdf)。たとえば、Moderate ADのAdultsでは、タクロリムス(プロトピック)軟膏代は、Maintenanceでは298英ポンド、Standardでは221英ポンドで、Maintenanceのほうが高いです。しかし、入院費などを含めた総コストでは、Maintenance 1431英ポンド、Standardでは2055英ポンドで、Maintenanceのほうが安いです。プロアクティブ治療は、製薬会社、健康保険会社、患者の三者ともがハッピーになる、良い方法だ、というわけです。
わたしも、それを否定しません。わたしは、プロアクティブ治療(というよりも、週二回外用療法)の、正しい普及に賛成です。
ただし、表題にも記しましたように、プロアクティブ治療は、非常に誤解されやすい面があります。まとめますと、プロアクティブ治療と言うのは、
1)患者がステロイド(またはプロトピック)外用治療を希望した場合に、
注:本ブログで繰り返し記していますが、依存や抵抗性に陥らせないような使い方を、医者が明示できない現状では、そもそもステロイド(またはプロトピック)外用治療を行うか否かの選択権が患者側にあると思われます。
2)一定期間の、毎日のステロイド(またはプロトピック)外用治療によって、皮疹が抑えられることを確認した上で、
注:ここで抑えられなければ、そもそもプロアクティブ治療は、行いようがありません。抑えられない場合は依存によるリバウンドや抵抗性例の可能性を考えるべきです。
3)それ以降、12ヶ月ほどの期間の間に限って、リアクティブ治療よりも、優位性が確認された方法である
注:12ヶ月を越えた優位性は確認されていないのみならず、上で記したように、自然治癒傾向を阻害するかもしれません。どちらともいえないので、12ヶ月を越えた以降は、やはり、十分な説明の上、患者に選択させるべきだと考えます。
ということです。
それにしても、まずは、日本皮膚科学会の治療ガイドライン中の誤った記述「外用中止:炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,症状をみながら漸減あるいは間欠投与を行い徐々に中止する.」を削除しなければなりません。それを怠って、一方で「プロアクティブ療法」を推進しようとすることは矛盾であり、現場がいっそう混乱します。
2011.08.22
わたしも、それを否定しません。わたしは、プロアクティブ治療(というよりも、週二回外用療法)の、正しい普及に賛成です。
ただし、表題にも記しましたように、プロアクティブ治療は、非常に誤解されやすい面があります。まとめますと、プロアクティブ治療と言うのは、
1)患者がステロイド(またはプロトピック)外用治療を希望した場合に、
注:本ブログで繰り返し記していますが、依存や抵抗性に陥らせないような使い方を、医者が明示できない現状では、そもそもステロイド(またはプロトピック)外用治療を行うか否かの選択権が患者側にあると思われます。
2)一定期間の、毎日のステロイド(またはプロトピック)外用治療によって、皮疹が抑えられることを確認した上で、
注:ここで抑えられなければ、そもそもプロアクティブ治療は、行いようがありません。抑えられない場合は依存によるリバウンドや抵抗性例の可能性を考えるべきです。
3)それ以降、12ヶ月ほどの期間の間に限って、リアクティブ治療よりも、優位性が確認された方法である
注:12ヶ月を越えた優位性は確認されていないのみならず、上で記したように、自然治癒傾向を阻害するかもしれません。どちらともいえないので、12ヶ月を越えた以降は、やはり、十分な説明の上、患者に選択させるべきだと考えます。
ということです。
それにしても、まずは、日本皮膚科学会の治療ガイドライン中の誤った記述「外用中止:炎症症状の鎮静後にステロイド外用薬を中止する際には,急激に中止することなく,症状をみながら漸減あるいは間欠投与を行い徐々に中止する.」を削除しなければなりません。それを怠って、一方で「プロアクティブ療法」を推進しようとすることは矛盾であり、現場がいっそう混乱します。
2011.08.22