佐藤先生(阪南)の学会発表に対する古江先生(九大)の質疑
2011年11月19日に、三重大学で、日本皮膚科学会中部支部学術大会がありました。阪南中央病院の佐藤健二先生が、「脱ステロイド・脱保湿で改善した成人型アトピー性皮膚炎3症例」と題して、口演発表を行いました。わたしはこの学会に出席しておらず、内容を確認していませんが、おそらく改善の典型例3例を示して、標準治療に対する問題提起を行ったという趣旨であったのでしょう。
このときフロアから、九州大学の古江教授が質疑をされたようで、その様子を佐藤先生ご自身が短報としてまとめて、ご自身の患者たちが集う掲示板に以下のように記しています。
ーーーーー(ここから)-----
【日本皮膚科学会中部支部学術大会の報告】
2011年11月19日に上記学会で口頭発表をしました。その内容の概略とその後の質疑応答につき報告させていただきます。正確な発言内容を記憶しているわけではないので文責は佐藤にあります。
学会抄録は以下の通りです。
===============================
「脱ステロイド・脱保湿により改善した成人型アトピー性皮膚炎3症例
阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二
日皮会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、ステロイド外用剤とプロトピックの有効性と安全性を立証する文献は不提示である。ガイドラインに影響のある古江氏の論文(BJD, 2003)では、6か月のステロイド治療を行い、治療開始時と終了時の皮疹の重症度比較をしている。重症度が改善した率は38%、変化無しは59%、増悪は3%で、治癒者はなかった。ステロイド治療では治りにくいことが分かる。当院では治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法を行っている。その主要な内容は、ステロイド離脱、保湿離脱、水分制限、食事制限なし、運動、規則正しい生活、精神的ストレス削減、掻くなと言わないこと、爪切り励行、止痒剤内服である。脱ステロイド・脱保湿後に一次的な増悪の後、著明な改善がみられた3名の患者の治療経過を供覧する。ガイドラインに、ステロイド外用治療で治りにくいアトピー性皮膚炎患者の治療として、脱ステロイド・脱保湿療法を含めるべきであると考える。」
===============================
話の内容は大体以上の通りに行いました。症例は「第91回 阪南中央病院 健康教室、2011年4月23日、松原図書館2F集会室」で行った講演の症例と同じです。そして、スライドの最後に、「アトピー性皮膚炎のガイドラインには『ステロイド治療で治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法は有効な治療である』を入れるべきである」と更に「皮膚科入院施設は脱ステロイド・脱保湿療法を習得すべきである」を入れました。
発表は制限時間より30秒ほどオーバーしました。
終わると、会場の中央から一人の先生が意見を述べるために私の真正面のすぐそばにあるマイクの前に出てこられました。何と古江増隆先生(九州大学医学部皮膚科教授、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン最高責任者、上記の古江氏のこと)ではありませんか!。私は古江先生が会場におられることを全く知りませんでした。浜松医科大学皮膚科教授、大阪市立大学医学部皮膚科教授、岐阜大学医学部皮膚科名誉教授の少なくとも3名の方と尼崎医療生協病院皮膚科の玉置先生がおられるのは知っていましたが。
第一声は「詳しく検討していただいて有難うと言いたいところですが」といつもの紳士的な言い方が終わったとたん、「脱ステロイドとはいったい何ですか、脱保湿とはなんですか」怒鳴りこみの質問と言うか、突然まくしたて始められました。「この論文はアクセプトされるのに3年かかりました。査読者の意見は、『日本のアトピー治療ではステロイド外用量が少ない。だから、成績が悪くて当たり前だ。』というものだ。この論文は治療成績がいい悪いということを言おうとしたものではない。ステロイド外用量の調査をしたのですよ。いいですか、大人や子供では6か月の平均でたった95gや45gしか使ってないんですよ(その場では145gとか言われたように思いましたが、原典を見て95と45にしました)。だから、もっと塗らなくてはならないんですよ。私の論文で成績が悪いと言っているが、ステロイドを塗ったら100%よくなると言う論文ぐらいいくらでもある。あなたは経過はどれだけ追ったのですか。何人の人が良くなったのですか。」と何処で答えを言っていいのやら困るほどに早口でまくしたてられました。入院患者ではですね、と答えようとすると「入院すればだれでも良くなることぐらい知らないのですか。そんなことは1900年の初め頃から分かっていますよ。」と言われたので、ではいったん増悪するのはどう説明したらいいのか、説明できないでしょう、と答えました。答えに窮したためでしょうか、何で言われたのか分かりませんが、「いくら入院患者でどうのこうの言ってもだめですよ。」と言われたので、第1例目は外来患者ですがと答えると一瞬詰まられました。しかし、「ステロイドを止めたらアトピーが良くなると言っているがそんなことはあり得ない。」と言われたので、私はこれまで一度としてストロイドを止めてアトピーが治ると言っていません、ステロイド依存性が治ると言っています、どちらかと言えば逆に、ステロイド依存性が治ればアトピーは出てくると言っているのです、といいました。
ここで、発表の内容に対する質問で無いので、座長に、私がこのような発言は学会の場ですることではないように思いますが、というと、座長もうなずかれました。が、古江先生は脱ステロイドはけしからんなどと話し続けられました。たまりかねて、玉置先生が割って入るようにして、「わたしもステロイドを使わないでほしいと言われる患者さんにはステロイドを使わない治療をします。ステロイドを使った治療もします」と、言われました。しかし、古江先生は、今度は「脱ステロイドはステロイドを使う皮膚科医の治療を冒涜することだ。けしからん。皆さんそう思いませんか。」と後ろを振り向いて賛同を得ようとしました。しかし、古江先生の期待に反して、賛同の声は一つもありませんでした。私が気付いた範囲では、一人だけ首を縦に振っておられました。古江先生が余りにもまくし立てられたので、ほとんどの聴衆はあっけにとられて返事を忘れたのかもしれませんが、私の感じ方からすれば、ほとんどの人は賛同されなかったような気がしました。座長に促されて古江先生は元の席へ戻られました。
次に兵庫県立がんセンターのK先生が発言されました。いつも通り声が小さかったのでほとんど聞き取れませんでした。症例を選んで脱ステロイドをするべきであるというようなことを述べられたのかもしれません。
最後に岐阜大学医学部皮膚科名誉教授が質問されました。その質問は、皮膚科の学会としては本質的に重要な質問でした。「酒さ様皮膚炎ではないのか。言おうとしている皮疹はどんな皮疹なのか。区別して説明してほしい」と。質問が少しわかりにくかったこともありますが、これに対しての私の答えは少しまずかったと思います。次のように言うべきだったと思います。「酒さ様皮膚炎の定義は顔面の皮疹での定義で、顔面のステロイド依存性皮膚症である。酒さ様皮膚炎の場合はステロイドを塗ることによって安定している状態を記述している。ステロイド依存性皮膚症は、酒さ様皮膚炎を含めた概念で、全身の皮膚で起こっている『酒さ様皮膚炎』のことであり、皮疹の形態はどのような形でも存在するので特定の皮疹を示すことはできない」、と。座長が終了を宣言されました。
机の上にあったタイマーから判断すると、私の発表に関して13分間の議論があったようです。ちなみに規定の討論時間は3分です。 以上。
簡単な感想ですが、学会側はだいぶ焦っているようですね。だからテレビでプロアクティブ治療を頻回に宣伝するのでしょう。
http://8617.teacup.com/atopy/bbs
ーーーーー(ここまで)-----
ときどき、コメント欄を通じて、「標準治療のお医者さんと、脱ステロイドのお医者さんは、なぜ仲が悪いのですか?もっと、患者のために、相互に意見交換・情報交換すべきではありませんか?」といった、ご意見をいただくのですが、私たちがそのような努力をしてこなかったのでは決してありません。こちらがいくら議論しようとしても、先方がまともに相手してくれない(激高・感情的になったり、威圧しようとする)のです。佐藤先生の短報からその雰囲気がお解かりいただけるかと思います。
なぜ、このような手法が採られるかというと、その最大の目的は、学会に勉強に来ている若手皮膚科医たちへの、ステロイド依存問題にかかわるな、という威嚇だと私は思います。
一応、古江先生の質疑の矛盾を指摘しますと、古江先生は、ご自身が2011年7月にお書きになった論文中で、
========
The total usage of topical steroids was unexpectedly higher in the “uncontrolled” group than in the “controlled” group. The statistical difference became more obvious in the adolescent/adult group than in the childhood group (Table 3). Topical steroids are useful for treating AD, but there appears to be a subgroup of patients who remain severe despite increasing applications of topical steroids.
コントロール不良群でのステロイド外用剤使用量は、コントロール良好群に比べて、予想外に多かった。統計的有意差は、小児よりも思春期成人において、より明らかであった。ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の治療に有用であるが、ステロイド外用量を増やしても「悪い」ままである一部の患者群がいるようである。
========
と、ステロイド外用量を増やしても、良くならない患者がいることを認めています(→こちら)。
その上で、ステロイドの使用量が少ないためにコントロールされていない患者もいる、と分析なさっています。
========
Nevertheless, all of the patients in the “uncontrolled” group may not have been “uncontrollable”, because the total application dose per 6 months in 50% of the “uncontrolled” patients was very small (Table 6, undertreatment state).
しかしながら、コントロール不良群の全ての患者が、真にコントロール不能というわけではないかもしれない。なぜなら、コントロール不良群の患者の50%では、ステロイド外用総量が非常に少ないからである(表6、外用量不足)。
========
古江先生の名誉のために付記しますと、古江先生は、佐藤先生の短報にも少し記されているように、ふだんはとても紳士的な方です。その古江先生をして、このような質疑をなさしめるといった、異様な状況が、もうこの十年以上、続いているわけです。
私は繰り返し記していますが、標準治療を全否定しているわけではありません。古江先生御自身が記しておられるような、「ステロイド外用量を増やしても『悪い』ままである一部の患者群」について、その中にはステロイド依存例・抵抗性が含まれているだろうから、そういった患者群への対処をガイドラインに書き加えるべきではないのか?と訴え続けています。佐藤先生の今回の御発表の趣旨も、そこにあったと思います。
古江先生も、私も佐藤先生も、基本的認識は同じなのです。次の機会には、古江先生が、激高・感情的・威圧的になることなく、冷静に議論してくださいますよう希望いたします。
※付記: 参考として、1998年10月の日本皮膚科学会中部支部学術大会のシンポジウムの抄録を記しておきます。
ーーーーー(ここから)-----
川島眞(東京女子医大)
「ステロイド外用剤に罪はない」
アトピー性皮膚炎の治療におけるステロイド外用剤の使用に否定的な意見を述べる皮膚科医がいる。浅薄な薬害報道と医療批判を繰り返すマスコミにとって、これらの皮膚科医は好まれる存在であるし、既存の治療法を否定することが前提となる民間療法には、格好の論拠を与えることとなる。その結果は、患者に必要以上の恐怖感を与え、ステロイド拒否のかたくなな姿勢を植え付けることとなり、治療の困難さはもとより、患者のQOLを著しく損なうこととなった。 本症は遺伝性疾患であり、発症因子のすべてを除去することは不可能であり、対症的にその炎症を最も効果的に鎮静させるステロイド外用剤を使用すべき患者には当然使用するし、それで良好な経過が得られることは現在でも事実である。もし、脱ステロイドを行うのであれば、止めてみてから考えるのではなく、明確な根拠でその効果を予測すべきであった。多くの患者に苦悩を与えた責任は大きい。
玉置昭治(淀川キリスト教病院)
「ステロイド推進派との違い」
ステロイド軟膏に頼る治療で問題になるのは、塗っても効かなくなる、またはステロイド依存症になる例がある点である。ステロイド軟膏が有効でコントロールできている場合に中止する必要はない。しかし、ステロイドの効果がある間にステロイドを止める努力をしたほうが、ステロイドが効かなくなって止めるより止め易い。増悪因子を解明しステロイドを使わなくてもいいようにすべきである。ステロイド軟膏が何時までも効くとは考えがたい。ステロイド以外の治療を希望する患者にステロイド使用に固執すると、納得させたつもりでも皮膚科医以外の治療者に逃がすことになり、不幸な結果を生む。アトピー性皮膚炎は皮膚科医が指導すべきである。その治療は医師と患者との共同作業である。ステロイド軟膏しか確実に効く薬はないが、使う場合、使わない場合の医療情報をきちんと提供したうえで患者に選択させるべきである。
ーーーーー(ここまで)-----
13年前のものですが、今回の古江先生の質疑と比較すると、まだ、この頃のほうが、まがりなりにも議論らしいことが行われていただけ、ましだったのかなあ、と思います。
川島先生の論調は、このころ既に威圧的・脅迫的でした。お二人の意見の大きな違いは、いわゆるアトピービジネス(脱ステロイド系の民間療法)が、皮膚科医が脱ステロイドに取り組むことによって増加すると川島先生が述べているのに対し、玉置先生は逆で、皮膚科医が脱ステロイドに取り組むことによってしか解決しない、と述べている点です。
私も経験しましたが、川島先生にはじまる、皮膚科学会での、脱ステロイドに関する演題に対する、罵倒とも言える感情的な糾弾・排斥は、温厚で紳士的な古江先生をも、そのような態度で臨んで当然、いや、そのように対処すべきだ、という気持ちにさせてしまったのでしょう。この点、東大皮膚科医局の先輩である川島先生の責任が大だと感じます。
2011.11.22
このときフロアから、九州大学の古江教授が質疑をされたようで、その様子を佐藤先生ご自身が短報としてまとめて、ご自身の患者たちが集う掲示板に以下のように記しています。
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【日本皮膚科学会中部支部学術大会の報告】
2011年11月19日に上記学会で口頭発表をしました。その内容の概略とその後の質疑応答につき報告させていただきます。正確な発言内容を記憶しているわけではないので文責は佐藤にあります。
学会抄録は以下の通りです。
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「脱ステロイド・脱保湿により改善した成人型アトピー性皮膚炎3症例
阪南中央病院 皮膚科 佐藤健二
日皮会アトピー性皮膚炎診療ガイドラインでは、ステロイド外用剤とプロトピックの有効性と安全性を立証する文献は不提示である。ガイドラインに影響のある古江氏の論文(BJD, 2003)では、6か月のステロイド治療を行い、治療開始時と終了時の皮疹の重症度比較をしている。重症度が改善した率は38%、変化無しは59%、増悪は3%で、治癒者はなかった。ステロイド治療では治りにくいことが分かる。当院では治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法を行っている。その主要な内容は、ステロイド離脱、保湿離脱、水分制限、食事制限なし、運動、規則正しい生活、精神的ストレス削減、掻くなと言わないこと、爪切り励行、止痒剤内服である。脱ステロイド・脱保湿後に一次的な増悪の後、著明な改善がみられた3名の患者の治療経過を供覧する。ガイドラインに、ステロイド外用治療で治りにくいアトピー性皮膚炎患者の治療として、脱ステロイド・脱保湿療法を含めるべきであると考える。」
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話の内容は大体以上の通りに行いました。症例は「第91回 阪南中央病院 健康教室、2011年4月23日、松原図書館2F集会室」で行った講演の症例と同じです。そして、スライドの最後に、「アトピー性皮膚炎のガイドラインには『ステロイド治療で治りにくい患者に脱ステロイド・脱保湿療法は有効な治療である』を入れるべきである」と更に「皮膚科入院施設は脱ステロイド・脱保湿療法を習得すべきである」を入れました。
発表は制限時間より30秒ほどオーバーしました。
終わると、会場の中央から一人の先生が意見を述べるために私の真正面のすぐそばにあるマイクの前に出てこられました。何と古江増隆先生(九州大学医学部皮膚科教授、アトピー性皮膚炎診療ガイドライン最高責任者、上記の古江氏のこと)ではありませんか!。私は古江先生が会場におられることを全く知りませんでした。浜松医科大学皮膚科教授、大阪市立大学医学部皮膚科教授、岐阜大学医学部皮膚科名誉教授の少なくとも3名の方と尼崎医療生協病院皮膚科の玉置先生がおられるのは知っていましたが。
第一声は「詳しく検討していただいて有難うと言いたいところですが」といつもの紳士的な言い方が終わったとたん、「脱ステロイドとはいったい何ですか、脱保湿とはなんですか」怒鳴りこみの質問と言うか、突然まくしたて始められました。「この論文はアクセプトされるのに3年かかりました。査読者の意見は、『日本のアトピー治療ではステロイド外用量が少ない。だから、成績が悪くて当たり前だ。』というものだ。この論文は治療成績がいい悪いということを言おうとしたものではない。ステロイド外用量の調査をしたのですよ。いいですか、大人や子供では6か月の平均でたった95gや45gしか使ってないんですよ(その場では145gとか言われたように思いましたが、原典を見て95と45にしました)。だから、もっと塗らなくてはならないんですよ。私の論文で成績が悪いと言っているが、ステロイドを塗ったら100%よくなると言う論文ぐらいいくらでもある。あなたは経過はどれだけ追ったのですか。何人の人が良くなったのですか。」と何処で答えを言っていいのやら困るほどに早口でまくしたてられました。入院患者ではですね、と答えようとすると「入院すればだれでも良くなることぐらい知らないのですか。そんなことは1900年の初め頃から分かっていますよ。」と言われたので、ではいったん増悪するのはどう説明したらいいのか、説明できないでしょう、と答えました。答えに窮したためでしょうか、何で言われたのか分かりませんが、「いくら入院患者でどうのこうの言ってもだめですよ。」と言われたので、第1例目は外来患者ですがと答えると一瞬詰まられました。しかし、「ステロイドを止めたらアトピーが良くなると言っているがそんなことはあり得ない。」と言われたので、私はこれまで一度としてストロイドを止めてアトピーが治ると言っていません、ステロイド依存性が治ると言っています、どちらかと言えば逆に、ステロイド依存性が治ればアトピーは出てくると言っているのです、といいました。
ここで、発表の内容に対する質問で無いので、座長に、私がこのような発言は学会の場ですることではないように思いますが、というと、座長もうなずかれました。が、古江先生は脱ステロイドはけしからんなどと話し続けられました。たまりかねて、玉置先生が割って入るようにして、「わたしもステロイドを使わないでほしいと言われる患者さんにはステロイドを使わない治療をします。ステロイドを使った治療もします」と、言われました。しかし、古江先生は、今度は「脱ステロイドはステロイドを使う皮膚科医の治療を冒涜することだ。けしからん。皆さんそう思いませんか。」と後ろを振り向いて賛同を得ようとしました。しかし、古江先生の期待に反して、賛同の声は一つもありませんでした。私が気付いた範囲では、一人だけ首を縦に振っておられました。古江先生が余りにもまくし立てられたので、ほとんどの聴衆はあっけにとられて返事を忘れたのかもしれませんが、私の感じ方からすれば、ほとんどの人は賛同されなかったような気がしました。座長に促されて古江先生は元の席へ戻られました。
次に兵庫県立がんセンターのK先生が発言されました。いつも通り声が小さかったのでほとんど聞き取れませんでした。症例を選んで脱ステロイドをするべきであるというようなことを述べられたのかもしれません。
最後に岐阜大学医学部皮膚科名誉教授が質問されました。その質問は、皮膚科の学会としては本質的に重要な質問でした。「酒さ様皮膚炎ではないのか。言おうとしている皮疹はどんな皮疹なのか。区別して説明してほしい」と。質問が少しわかりにくかったこともありますが、これに対しての私の答えは少しまずかったと思います。次のように言うべきだったと思います。「酒さ様皮膚炎の定義は顔面の皮疹での定義で、顔面のステロイド依存性皮膚症である。酒さ様皮膚炎の場合はステロイドを塗ることによって安定している状態を記述している。ステロイド依存性皮膚症は、酒さ様皮膚炎を含めた概念で、全身の皮膚で起こっている『酒さ様皮膚炎』のことであり、皮疹の形態はどのような形でも存在するので特定の皮疹を示すことはできない」、と。座長が終了を宣言されました。
机の上にあったタイマーから判断すると、私の発表に関して13分間の議論があったようです。ちなみに規定の討論時間は3分です。 以上。
簡単な感想ですが、学会側はだいぶ焦っているようですね。だからテレビでプロアクティブ治療を頻回に宣伝するのでしょう。
http://8617.teacup.com/atopy/bbs
ーーーーー(ここまで)-----
ときどき、コメント欄を通じて、「標準治療のお医者さんと、脱ステロイドのお医者さんは、なぜ仲が悪いのですか?もっと、患者のために、相互に意見交換・情報交換すべきではありませんか?」といった、ご意見をいただくのですが、私たちがそのような努力をしてこなかったのでは決してありません。こちらがいくら議論しようとしても、先方がまともに相手してくれない(激高・感情的になったり、威圧しようとする)のです。佐藤先生の短報からその雰囲気がお解かりいただけるかと思います。
なぜ、このような手法が採られるかというと、その最大の目的は、学会に勉強に来ている若手皮膚科医たちへの、ステロイド依存問題にかかわるな、という威嚇だと私は思います。
一応、古江先生の質疑の矛盾を指摘しますと、古江先生は、ご自身が2011年7月にお書きになった論文中で、
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The total usage of topical steroids was unexpectedly higher in the “uncontrolled” group than in the “controlled” group. The statistical difference became more obvious in the adolescent/adult group than in the childhood group (Table 3). Topical steroids are useful for treating AD, but there appears to be a subgroup of patients who remain severe despite increasing applications of topical steroids.
コントロール不良群でのステロイド外用剤使用量は、コントロール良好群に比べて、予想外に多かった。統計的有意差は、小児よりも思春期成人において、より明らかであった。ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎の治療に有用であるが、ステロイド外用量を増やしても「悪い」ままである一部の患者群がいるようである。
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と、ステロイド外用量を増やしても、良くならない患者がいることを認めています(→こちら)。
その上で、ステロイドの使用量が少ないためにコントロールされていない患者もいる、と分析なさっています。
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Nevertheless, all of the patients in the “uncontrolled” group may not have been “uncontrollable”, because the total application dose per 6 months in 50% of the “uncontrolled” patients was very small (Table 6, undertreatment state).
しかしながら、コントロール不良群の全ての患者が、真にコントロール不能というわけではないかもしれない。なぜなら、コントロール不良群の患者の50%では、ステロイド外用総量が非常に少ないからである(表6、外用量不足)。
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古江先生の名誉のために付記しますと、古江先生は、佐藤先生の短報にも少し記されているように、ふだんはとても紳士的な方です。その古江先生をして、このような質疑をなさしめるといった、異様な状況が、もうこの十年以上、続いているわけです。
私は繰り返し記していますが、標準治療を全否定しているわけではありません。古江先生御自身が記しておられるような、「ステロイド外用量を増やしても『悪い』ままである一部の患者群」について、その中にはステロイド依存例・抵抗性が含まれているだろうから、そういった患者群への対処をガイドラインに書き加えるべきではないのか?と訴え続けています。佐藤先生の今回の御発表の趣旨も、そこにあったと思います。
古江先生も、私も佐藤先生も、基本的認識は同じなのです。次の機会には、古江先生が、激高・感情的・威圧的になることなく、冷静に議論してくださいますよう希望いたします。
※付記: 参考として、1998年10月の日本皮膚科学会中部支部学術大会のシンポジウムの抄録を記しておきます。
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川島眞(東京女子医大)
「ステロイド外用剤に罪はない」
アトピー性皮膚炎の治療におけるステロイド外用剤の使用に否定的な意見を述べる皮膚科医がいる。浅薄な薬害報道と医療批判を繰り返すマスコミにとって、これらの皮膚科医は好まれる存在であるし、既存の治療法を否定することが前提となる民間療法には、格好の論拠を与えることとなる。その結果は、患者に必要以上の恐怖感を与え、ステロイド拒否のかたくなな姿勢を植え付けることとなり、治療の困難さはもとより、患者のQOLを著しく損なうこととなった。 本症は遺伝性疾患であり、発症因子のすべてを除去することは不可能であり、対症的にその炎症を最も効果的に鎮静させるステロイド外用剤を使用すべき患者には当然使用するし、それで良好な経過が得られることは現在でも事実である。もし、脱ステロイドを行うのであれば、止めてみてから考えるのではなく、明確な根拠でその効果を予測すべきであった。多くの患者に苦悩を与えた責任は大きい。
玉置昭治(淀川キリスト教病院)
「ステロイド推進派との違い」
ステロイド軟膏に頼る治療で問題になるのは、塗っても効かなくなる、またはステロイド依存症になる例がある点である。ステロイド軟膏が有効でコントロールできている場合に中止する必要はない。しかし、ステロイドの効果がある間にステロイドを止める努力をしたほうが、ステロイドが効かなくなって止めるより止め易い。増悪因子を解明しステロイドを使わなくてもいいようにすべきである。ステロイド軟膏が何時までも効くとは考えがたい。ステロイド以外の治療を希望する患者にステロイド使用に固執すると、納得させたつもりでも皮膚科医以外の治療者に逃がすことになり、不幸な結果を生む。アトピー性皮膚炎は皮膚科医が指導すべきである。その治療は医師と患者との共同作業である。ステロイド軟膏しか確実に効く薬はないが、使う場合、使わない場合の医療情報をきちんと提供したうえで患者に選択させるべきである。
ーーーーー(ここまで)-----
13年前のものですが、今回の古江先生の質疑と比較すると、まだ、この頃のほうが、まがりなりにも議論らしいことが行われていただけ、ましだったのかなあ、と思います。
川島先生の論調は、このころ既に威圧的・脅迫的でした。お二人の意見の大きな違いは、いわゆるアトピービジネス(脱ステロイド系の民間療法)が、皮膚科医が脱ステロイドに取り組むことによって増加すると川島先生が述べているのに対し、玉置先生は逆で、皮膚科医が脱ステロイドに取り組むことによってしか解決しない、と述べている点です。
私も経験しましたが、川島先生にはじまる、皮膚科学会での、脱ステロイドに関する演題に対する、罵倒とも言える感情的な糾弾・排斥は、温厚で紳士的な古江先生をも、そのような態度で臨んで当然、いや、そのように対処すべきだ、という気持ちにさせてしまったのでしょう。この点、東大皮膚科医局の先輩である川島先生の責任が大だと感じます。
2011.11.22