2010年11月12日の朝日新聞の記事
「11月10日の記事」はこちら。「11月11日の記事」はこちら。
ーーーーー(ここから引用)-----
【皮膚 大人のアトピー:4 即入院 再びステロイド治療】
埼玉県の荻野美和子さん(31)は、漢方でアトピー性皮膚炎を治そうとしたが、5年半たっても改善しなかった。家族の勧めで2006年10月、東京逓信病院を受診した。
皮膚科部長の江藤隆史(えとうたかふみ)医師が示した治療は、あれほど嫌ったステロイドの塗り薬を使う普通の方法。「魔法の病院かもしれない」という期待は、すぐに裏切られた。「ステロイド治療は受けません」と言って帰宅した。
だが、迷った。
漢方を信じた5年半を無駄にしたくない一方、「このままでは良くならない」とも感じていた。会社も休みがちで、両親の支えがなければ生活ができない。心も体も疲れきっていた。新しい治療を探す気力は残っていない。目の前の治療にすがるしかなかった。
覚悟を決め、東京逓信病院に連絡した。
炎症とかき壊しを繰り返した荻野さんの肌は、ゴワゴワに分厚くなり、体液もにじみ出る重症の状態だった。即、入院が決まった。 仕事を休み、10月17日から入院した。朝夕2回シャワーを浴び、上がると看護師が全身に薬を塗る。薬の塗り方や量は、高校生の頃とは全く違っていた。
まず保湿剤を塗り、炎症を抑えるステロイドを肌にたっぷりと乗せて広げた。さらに、傷の治りを助ける軟膏(なんこう)(亜鉛華<か>軟膏)を塗った白い布を重ね、その上に包帯を巻いた。顔には弱めのステロイドを塗った。さすがに恥ずかしくて病院の売店に行けなかった。
数日後、全身にあったひっかき傷が閉じ始めた。パンパンだった手足の腫れも引いた。かさぶたや痛んだ皮膚がはがれて、その下に普通の肌ができていた。
3日目ごろから、背中にはステロイド剤が不要になり、保湿だけになった。顔は、ステロイドより副作用の少ないタクロリムス軟膏に変わった。このころにはシャワーから上がっても、肌がつっぱらなくなった。物を取るために腕を伸ばしても、肌がきしまない。 「みんなこんなに快適な生活をしているのか」としみじみと思った。
8日目に退院した。まだ肌に赤みは残っていたけれど、腫れやゴワつきがなくなり、なめらかな肌に戻っていた。
翌朝から仕事に復帰した。自宅から駅まで約10分。バレエをやっていた頃のように、胸を斜め上に引き上げ、背筋をスッと伸ばして歩いた。もう太陽が怖くなかった。
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://megalodon.jp/2010-1112-1606-38/www.asahi.com/health/ikiru/TKY201011120179.html?ref=reca
11月10日に予想した通り、担当医は逓信病院の江藤先生でした。そして行われた治療法は、 「ステロイドの塗り薬を使う普通の方法」でした。
江藤先生は、学会などでのご発表・ご講演で知る限り、権威に重きを置く、非常に保守的な年配の皮膚科医ですので、とくに新奇な治療法などに手を出すはずがないのです。
「まず保湿剤を塗り、炎症を抑えるステロイドを肌にたっぷりと乗せて広げた。さらに、傷の治りを助ける軟膏(なんこう)(亜鉛華<か>軟膏)を塗った白い布を重ね、その上に包帯を巻いた。顔には弱めのステロイドを塗った。」
これは、重層法といって、湿疹の炎症が強いときになされる皮膚科の古典的な方法です。元々は昭和30~40年台くらいに、まだ強力なステロイド外用剤が開発されないころ、弱いステロイド外用剤の吸収を高める工夫のひとつとして確立しました。亜鉛華軟膏自体にも弱い抗炎症作用があり、また亜鉛華軟膏の粘着性を利用して皮膚の落屑を効率的に剥がし取るメリットもあります。
なぜ「魔法の病院でもない」逓信病院で、「ステロイドの塗り薬を使う普通の方法」で、この方は良くなったのでしょうか?それは
「5年半」という時間のためです。 昨日記しました通り、「5年半」というステロイド外用剤からの離脱期間が、彼女を依存(塗っても効かない)状態から回復させていたということです。
11月9日の記事にある、
ーーーーー
高校2年の時。米国に滞在するためパスポート用の写真を撮ると、顔の赤みや湿疹が際だって見えた。「こんなひどい状態じゃ行けない」。近所の皮膚科医院にかけこんだ。ステロイドの塗り薬と飲み薬を処方され、使っているうち、かゆみが消えて顔の湿疹もきれいになっていった。
ーーーーー
高2の頃の、まだ依存がなく、ステロイドを外用すれば治まるが、中止すれば元に戻る(大学4年冬のときのような激烈な悪化=リバウンドに見舞われない)肌に、5年半かけて戻ったということです。
もし彼女が、大学4年の冬に逓信病院に入院していたとしたら、そのときも全く同じ重層法での治療がなされたでしょうが、今回のようにすんなりと湿疹が改善したでしょうか?
ーーーーー
数日後、全身にあったひっかき傷が閉じ始めた。パンパンだった手足の腫れも引いた。かさぶたや痛んだ皮膚がはがれて、その下に普通の肌ができていた。
3日目ごろから、背中にはステロイド剤が不要になり、保湿だけになった。
ーーーーー
依存状態にある患者のリバウンドが、このような経過でよくなってくれたら本当に良いのに、と心から思います。依存状態の患者で同じ重層法を行えば、いったんは多少の改善はしますが、止めれば再び悪化で赤く腫れあがりじゅくじゅくと汁が出始めて振り出しに戻ります。私自身、1990年代はじめに、当時勤務していた国立名古屋病院で、そのような重層法での治療が効かないアトピー患者が増えてきたので困って、色々調べた結果、徳島大学の榎本先生らの論文(1)(2)に巡り合って、この「ステロイド依存」の病態に気がついた経緯があります。入院させて重層法で、全ての患者が良くなって退院していってくれていたら、私はこの問題に関わっていなかっただろうし、過労で体を壊してもいなかったでしょう。
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漢方を信じた5年半を無駄にしたくない一方、「このままでは良くならない」とも感じていた
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昨日も記しましたが、わたしはこの5年半は彼女にとって「無駄」であったとは思いません。 「漢方を信じた」とあります。「○○を信じる」のは、それにお金がかからず、副作用や他人への迷惑がかからなければ、よいことです。 脱線話になりますが、わたしの場合は、お札(おふだ)をつくって配っていたことがあります。お地蔵さんのイラストをコピーして「快癒祈願、ヘルペス退散、貧乏用心」と記したものです。「この辛い時期、何かにすがりたくなるだろうが、決してお金のかかるものにすがってはいけない。どうしても辛くなったら、このお札を丸めて飲みなさい。江戸時代の人は持病の癪が起こると、お大師様のお札を丸めて飲んで治したそうだ」。こういったユーモアというか笑いが、この孤独な時期の一番の薬です。
信じるもの、すがるものが見えなくなったとき、患者は「このままでは良くならない」と悲観し焦ります。
まったくの孤独な中での離脱は辛いです。今回の入院にしても、たとえそれがステロイド外用治療だったとはいえ、同室の患者たちとの交流や、看護婦さんや医師たちとの触れ合いは、彼女に良い効果をもたらしたことでしょう。アトピー性皮膚炎の入院治療と言うのは、そういう心理ケアの側面もあります。
ーーーーー
「このままでは良くならない」とも感じていた
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良くならなかったのではなく、「このままでは良くならない」と感じたのです。悲観を支える新しい何かが、彼女には必要な時期に来ていたのでしょう。今回の話は、それが、たまたまステロイドを処方する普通の皮膚科の先生であったというだけのことです。この先生の治療法が優れていたわけではありません。
もういちど記しますが、
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5年半を無駄
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無駄ではありません。これだけの時間が必要だったのです。今日の朝日新聞の記事を読んだ読者が一番誤解しやすいところだと思うので強調します。
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顔は、ステロイドより副作用の少ないタクロリムス軟膏に変わった。
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タクロリムス(プロトピック)軟膏を用いての、離脱に関しては、以前何回か記しましたので、ここでは該当ページへのリンクに留めます(→こちら)。わたしが現役の皮膚科医であった10年前にも、すでに離脱後の治まりきらない顔面の湿疹を、非常に少量のプロトピック(1月に5gかそれ以下)で上手にコントロールしている患者はいました。発癌性を問題視する向きもありますが、今のところは世界的にも大きな問題は生じていないようです(1)(2)。
本日までの4回の連載を読んで、わたしが気になっているのは、記者の方は、「ステロイド外用剤は、入院治療して、『正しい使い方』を指導することが大切だ」という結論に持っていこうと考えているのではないか?ということです。 「高2から大学4年までの彼女の悪化は、外来通院できちんと指導されていなかったのではないか?あるいは漠然としたステロイドへの恐怖のため、十分な量が塗られていなかったのではないか?」と考えていらっしゃるのではないでしょうか。 もしそうであれば、大学4年冬にステロイドを中止したあとの、激烈な悪化が説明できません。
「ステロイド依存という病態が存在するというなら、それに陥らないように、具体的に『一回にこれくらいをこのくらいの面積に塗って下さい。これが依存に陥らないステロイドの正しい使い方です』と説明するべきだ。」と考えるかもしれません。しかし残念ながら、そのような観点からの研究はまだありません。データが無いのです。そのような中「正しい塗り方」というのは有り得ません。
アルコール依存に置き換えて考えてみてください。「ウイスキーなら一日にこれくらい、焼酎ならこれくらいまでなら、アルコール依存には陥りません」という研究は、わたしは見たことがありません。実験しようとしても、実際の患者で人体実験するわけにはいかないし、患者のステロイド外用歴を聞いても、記事に登場する彼女のようにあやふやなことがほとんどです。動物実験では、これまでにこのブログで紹介したように、ステロイド依存のモデルを作成することは可能です。そしてそれは、少量の数日の外用ですら成立します。
ですから「正しい塗り方」なんてものは、アルコール依存に絶対に陥らないお酒の飲み方と同じような意味で、存在しないといえます。しかし、ステロイドもアルコールも、「適度に」使えば、良薬であり、「百薬の長」であることも事実です。 朝日新聞の記事が、「入院治療して『正しいステロイドの塗り方』の指導を受けることこそが、アトピー克服の鍵だ」なんて結論にならなければよいのですが。
「1FTU(finger-tube-unit)は人差し指の先から第一関節までチューブを絞った量です。これを手のひら二枚分の面積に塗って下さい。それがステロイドの正しい使い方です。これを覚えればあなたはアトピーを克服したも同然!」なんて悪い冗談みたいなまとめにならないことを祈ります。
※昔外来で配っていたお地蔵さんを再現してみました。
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【皮膚 大人のアトピー:4 即入院 再びステロイド治療】
埼玉県の荻野美和子さん(31)は、漢方でアトピー性皮膚炎を治そうとしたが、5年半たっても改善しなかった。家族の勧めで2006年10月、東京逓信病院を受診した。
皮膚科部長の江藤隆史(えとうたかふみ)医師が示した治療は、あれほど嫌ったステロイドの塗り薬を使う普通の方法。「魔法の病院かもしれない」という期待は、すぐに裏切られた。「ステロイド治療は受けません」と言って帰宅した。
だが、迷った。
漢方を信じた5年半を無駄にしたくない一方、「このままでは良くならない」とも感じていた。会社も休みがちで、両親の支えがなければ生活ができない。心も体も疲れきっていた。新しい治療を探す気力は残っていない。目の前の治療にすがるしかなかった。
覚悟を決め、東京逓信病院に連絡した。
炎症とかき壊しを繰り返した荻野さんの肌は、ゴワゴワに分厚くなり、体液もにじみ出る重症の状態だった。即、入院が決まった。 仕事を休み、10月17日から入院した。朝夕2回シャワーを浴び、上がると看護師が全身に薬を塗る。薬の塗り方や量は、高校生の頃とは全く違っていた。
まず保湿剤を塗り、炎症を抑えるステロイドを肌にたっぷりと乗せて広げた。さらに、傷の治りを助ける軟膏(なんこう)(亜鉛華<か>軟膏)を塗った白い布を重ね、その上に包帯を巻いた。顔には弱めのステロイドを塗った。さすがに恥ずかしくて病院の売店に行けなかった。
数日後、全身にあったひっかき傷が閉じ始めた。パンパンだった手足の腫れも引いた。かさぶたや痛んだ皮膚がはがれて、その下に普通の肌ができていた。
3日目ごろから、背中にはステロイド剤が不要になり、保湿だけになった。顔は、ステロイドより副作用の少ないタクロリムス軟膏に変わった。このころにはシャワーから上がっても、肌がつっぱらなくなった。物を取るために腕を伸ばしても、肌がきしまない。 「みんなこんなに快適な生活をしているのか」としみじみと思った。
8日目に退院した。まだ肌に赤みは残っていたけれど、腫れやゴワつきがなくなり、なめらかな肌に戻っていた。
翌朝から仕事に復帰した。自宅から駅まで約10分。バレエをやっていた頃のように、胸を斜め上に引き上げ、背筋をスッと伸ばして歩いた。もう太陽が怖くなかった。
ーーーーー(ここまで引用)-----
http://megalodon.jp/2010-1112-1606-38/www.asahi.com/health/ikiru/TKY201011120179.html?ref=reca
11月10日に予想した通り、担当医は逓信病院の江藤先生でした。そして行われた治療法は、 「ステロイドの塗り薬を使う普通の方法」でした。
江藤先生は、学会などでのご発表・ご講演で知る限り、権威に重きを置く、非常に保守的な年配の皮膚科医ですので、とくに新奇な治療法などに手を出すはずがないのです。
「まず保湿剤を塗り、炎症を抑えるステロイドを肌にたっぷりと乗せて広げた。さらに、傷の治りを助ける軟膏(なんこう)(亜鉛華<か>軟膏)を塗った白い布を重ね、その上に包帯を巻いた。顔には弱めのステロイドを塗った。」
これは、重層法といって、湿疹の炎症が強いときになされる皮膚科の古典的な方法です。元々は昭和30~40年台くらいに、まだ強力なステロイド外用剤が開発されないころ、弱いステロイド外用剤の吸収を高める工夫のひとつとして確立しました。亜鉛華軟膏自体にも弱い抗炎症作用があり、また亜鉛華軟膏の粘着性を利用して皮膚の落屑を効率的に剥がし取るメリットもあります。
なぜ「魔法の病院でもない」逓信病院で、「ステロイドの塗り薬を使う普通の方法」で、この方は良くなったのでしょうか?それは
「5年半」という時間のためです。 昨日記しました通り、「5年半」というステロイド外用剤からの離脱期間が、彼女を依存(塗っても効かない)状態から回復させていたということです。
11月9日の記事にある、
ーーーーー
高校2年の時。米国に滞在するためパスポート用の写真を撮ると、顔の赤みや湿疹が際だって見えた。「こんなひどい状態じゃ行けない」。近所の皮膚科医院にかけこんだ。ステロイドの塗り薬と飲み薬を処方され、使っているうち、かゆみが消えて顔の湿疹もきれいになっていった。
ーーーーー
高2の頃の、まだ依存がなく、ステロイドを外用すれば治まるが、中止すれば元に戻る(大学4年冬のときのような激烈な悪化=リバウンドに見舞われない)肌に、5年半かけて戻ったということです。
もし彼女が、大学4年の冬に逓信病院に入院していたとしたら、そのときも全く同じ重層法での治療がなされたでしょうが、今回のようにすんなりと湿疹が改善したでしょうか?
ーーーーー
数日後、全身にあったひっかき傷が閉じ始めた。パンパンだった手足の腫れも引いた。かさぶたや痛んだ皮膚がはがれて、その下に普通の肌ができていた。
3日目ごろから、背中にはステロイド剤が不要になり、保湿だけになった。
ーーーーー
依存状態にある患者のリバウンドが、このような経過でよくなってくれたら本当に良いのに、と心から思います。依存状態の患者で同じ重層法を行えば、いったんは多少の改善はしますが、止めれば再び悪化で赤く腫れあがりじゅくじゅくと汁が出始めて振り出しに戻ります。私自身、1990年代はじめに、当時勤務していた国立名古屋病院で、そのような重層法での治療が効かないアトピー患者が増えてきたので困って、色々調べた結果、徳島大学の榎本先生らの論文(1)(2)に巡り合って、この「ステロイド依存」の病態に気がついた経緯があります。入院させて重層法で、全ての患者が良くなって退院していってくれていたら、私はこの問題に関わっていなかっただろうし、過労で体を壊してもいなかったでしょう。
ーーーーー
漢方を信じた5年半を無駄にしたくない一方、「このままでは良くならない」とも感じていた
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昨日も記しましたが、わたしはこの5年半は彼女にとって「無駄」であったとは思いません。 「漢方を信じた」とあります。「○○を信じる」のは、それにお金がかからず、副作用や他人への迷惑がかからなければ、よいことです。 脱線話になりますが、わたしの場合は、お札(おふだ)をつくって配っていたことがあります。お地蔵さんのイラストをコピーして「快癒祈願、ヘルペス退散、貧乏用心」と記したものです。「この辛い時期、何かにすがりたくなるだろうが、決してお金のかかるものにすがってはいけない。どうしても辛くなったら、このお札を丸めて飲みなさい。江戸時代の人は持病の癪が起こると、お大師様のお札を丸めて飲んで治したそうだ」。こういったユーモアというか笑いが、この孤独な時期の一番の薬です。
信じるもの、すがるものが見えなくなったとき、患者は「このままでは良くならない」と悲観し焦ります。
まったくの孤独な中での離脱は辛いです。今回の入院にしても、たとえそれがステロイド外用治療だったとはいえ、同室の患者たちとの交流や、看護婦さんや医師たちとの触れ合いは、彼女に良い効果をもたらしたことでしょう。アトピー性皮膚炎の入院治療と言うのは、そういう心理ケアの側面もあります。
ーーーーー
「このままでは良くならない」とも感じていた
ーーーーー
良くならなかったのではなく、「このままでは良くならない」と感じたのです。悲観を支える新しい何かが、彼女には必要な時期に来ていたのでしょう。今回の話は、それが、たまたまステロイドを処方する普通の皮膚科の先生であったというだけのことです。この先生の治療法が優れていたわけではありません。
もういちど記しますが、
ーーーーー
5年半を無駄
ーーーーー
無駄ではありません。これだけの時間が必要だったのです。今日の朝日新聞の記事を読んだ読者が一番誤解しやすいところだと思うので強調します。
ーーーーー
顔は、ステロイドより副作用の少ないタクロリムス軟膏に変わった。
ーーーーー
タクロリムス(プロトピック)軟膏を用いての、離脱に関しては、以前何回か記しましたので、ここでは該当ページへのリンクに留めます(→こちら)。わたしが現役の皮膚科医であった10年前にも、すでに離脱後の治まりきらない顔面の湿疹を、非常に少量のプロトピック(1月に5gかそれ以下)で上手にコントロールしている患者はいました。発癌性を問題視する向きもありますが、今のところは世界的にも大きな問題は生じていないようです(1)(2)。
本日までの4回の連載を読んで、わたしが気になっているのは、記者の方は、「ステロイド外用剤は、入院治療して、『正しい使い方』を指導することが大切だ」という結論に持っていこうと考えているのではないか?ということです。 「高2から大学4年までの彼女の悪化は、外来通院できちんと指導されていなかったのではないか?あるいは漠然としたステロイドへの恐怖のため、十分な量が塗られていなかったのではないか?」と考えていらっしゃるのではないでしょうか。 もしそうであれば、大学4年冬にステロイドを中止したあとの、激烈な悪化が説明できません。
「ステロイド依存という病態が存在するというなら、それに陥らないように、具体的に『一回にこれくらいをこのくらいの面積に塗って下さい。これが依存に陥らないステロイドの正しい使い方です』と説明するべきだ。」と考えるかもしれません。しかし残念ながら、そのような観点からの研究はまだありません。データが無いのです。そのような中「正しい塗り方」というのは有り得ません。
アルコール依存に置き換えて考えてみてください。「ウイスキーなら一日にこれくらい、焼酎ならこれくらいまでなら、アルコール依存には陥りません」という研究は、わたしは見たことがありません。実験しようとしても、実際の患者で人体実験するわけにはいかないし、患者のステロイド外用歴を聞いても、記事に登場する彼女のようにあやふやなことがほとんどです。動物実験では、これまでにこのブログで紹介したように、ステロイド依存のモデルを作成することは可能です。そしてそれは、少量の数日の外用ですら成立します。
ですから「正しい塗り方」なんてものは、アルコール依存に絶対に陥らないお酒の飲み方と同じような意味で、存在しないといえます。しかし、ステロイドもアルコールも、「適度に」使えば、良薬であり、「百薬の長」であることも事実です。 朝日新聞の記事が、「入院治療して『正しいステロイドの塗り方』の指導を受けることこそが、アトピー克服の鍵だ」なんて結論にならなければよいのですが。
「1FTU(finger-tube-unit)は人差し指の先から第一関節までチューブを絞った量です。これを手のひら二枚分の面積に塗って下さい。それがステロイドの正しい使い方です。これを覚えればあなたはアトピーを克服したも同然!」なんて悪い冗談みたいなまとめにならないことを祈ります。
※昔外来で配っていたお地蔵さんを再現してみました。
追記)先ほど、朝日新聞へのメールの返事が届きました。
ーーーーー
深谷元継様
このたびは貴重なご意見をお送りいただき、ありがとうございました。
「患者を生きる」の企画は、読者の皆様からの声を反映させながら記事をつくっていきたいと考えています。
いただいたお便りは、今後の紙面作りの参考にさせていただきます。
今後も皆様の率直なご意見をお聞かせください。どうぞよろしくお願いいたします。
まずは御礼まで申し上げます。
朝日新聞「患者を生きる」取材班
鈴木彩子
ーーーーー
とりあえず記者に声は届きました。まだ連載は続きます。あとは、今後の記事の内容に少しでも反映されることを祈るばかりです。 皆様も、記者さんに、ぜひご意見・経験談をお送りください。「あて先は〒104・8011 朝日新聞社報道局科学医療グループ「患者を生きる」係。ファクス03・3542・3217、メールは[email protected]へ。お名前、ご住所と電話番号を必ず添えて下さい」です。
2010.11.12
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深谷元継様
このたびは貴重なご意見をお送りいただき、ありがとうございました。
「患者を生きる」の企画は、読者の皆様からの声を反映させながら記事をつくっていきたいと考えています。
いただいたお便りは、今後の紙面作りの参考にさせていただきます。
今後も皆様の率直なご意見をお聞かせください。どうぞよろしくお願いいたします。
まずは御礼まで申し上げます。
朝日新聞「患者を生きる」取材班
鈴木彩子
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とりあえず記者に声は届きました。まだ連載は続きます。あとは、今後の記事の内容に少しでも反映されることを祈るばかりです。 皆様も、記者さんに、ぜひご意見・経験談をお送りください。「あて先は〒104・8011 朝日新聞社報道局科学医療グループ「患者を生きる」係。ファクス03・3542・3217、メールは[email protected]へ。お名前、ご住所と電話番号を必ず添えて下さい」です。
2010.11.12